愛の喜び(Plaisir d’amour):ナナ・ムスクーリ(歌と訳詞)

フレンチポップスの訳詞

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フランスの古い歌、Plaisir d’amour(プレジール・ダムール)を訳してみました。

日本では「愛の喜び」という題で知られています。

作詞はジャン=ピエール・クラリス・ド・フロリアン(Jean-Pierre Claris de Florian)、作曲はジャン=ポール=エジード・マルティーニ(Jean-Paul-Égide Martini)。

1784年に刊行されたフロリアンの短編小説『セレスティーヌ』(Célestine)の中に出てくる歌詞に、同じ年にマルティーニが曲をつけました。

はじめは「山羊飼いのロマンス」(La Romance du Chevrier)という題で知られていたそうです。

恋人に去られた人が、愛の喜びは一瞬で、悲しみは一生続くと嘆く歌です。

いろいろな歌手が歌っていますが、今回はナナ・ムスクーリの歌を選びました。

1971年の録音で、3分21秒です。

歌詞を見ながら聞きたいときは、こちらの動画もどうぞ。

愛の喜び・歌詞

フロリアンの元の歌詞

ナナ・ムスクーリは、元の歌詞を少し変えて歌っています。

フロリアンが書いた歌詞はこちらです。

Plaisir d’amour ne dure qu’un moment,
Chagrin d’amour dure toute la vie.
J’ai tout quitté pour l’ingrate Sylvie.
Elle me quitte et prend un autre amant.
Plaisir d’amour ne dure qu’un moment,
Chagrin d’amour dure toute la vie.

Tant que cette eau coulera doucement
Vers ce ruisseau qui borde la prairie,
Je t’aimerai, me répétait Sylvie,
L’eau coule encore, elle a changé pourtant.
Plaisir d’amour ne dure qu’un moment,
Chagrin d’amour dure toute la vie.

違うのは、1番の2行と、2番の me répétait のところです。くわしくは単語・文法メモで。

愛の喜び・和訳

ナナ・ムスクーリが歌っている歌詞の和訳です。

愛の喜びは一瞬しか続かない
愛の悲しみは一生続く

あなたは美しいシルヴィのために私を捨てた
その彼女は、ほかの恋人のためにあなたを捨てる

愛の喜びは一瞬しか続かない
愛の悲しみは一生続く

この水が静かに流れていくかぎり
牧草地に沿ったあの小川へと
あなたを愛するわ、とシルヴィはあなたにくり返し言っていた
水は今も流れている、それなのに彼女は変わってしまった

愛の喜びは一瞬しか続かない
愛の悲しみは一生続く

単語・文法メモ

リフレイン:喜びは一瞬、悲しみは一生

plaisir : 喜び、楽しみ。

chagrin : 悲しみ、心の痛み。chagrin d’amour は「恋の悲しみ」「失恋」です。

plaisir と chagrin が、2行で対になっています。

ne … que : 〜しか…ない。

Plaisir d’amour ne dure qu’un moment は、直訳すると「愛の喜びは一瞬しか続かない」。

ne … que は否定の形をしていますが、意味は「〜だけ」です。

Plaisir d’amour dure seulement un moment と言っても同じ意味になります。

durer : 続く、持続する。

toute la vie : 一生、生涯。

1番:あなたは私を捨て、シルヴィはあなたを捨てる

quitter qn pour qn : 〜のために…を捨てる、…と別れて〜のもとへ行く。

Tu m’as quittée は複合過去、Elle te quitte は現在形です。

捨てた人が今度は捨てられる側になることを、同じquitter を使って表しています。

quittée の最後の e は、目的語の m’(私)が女性だからついています。

avoir を使う複合過去でも、直接目的語が動詞より前にあるときは、過去分詞がその性・数に一致します。

この版では、歌の中の「私」が女性なので、quittée になっています。

quitté と quittée は発音が同じなので、耳で聞いただけではわかりません。

もとのフロリアンの歌詞は男性の語り手で、J’ai tout quitté pour l’ingrate Sylvie(私は薄情なシルヴィのためにすべてを捨てた)、Elle me quitte et prend un autre amant(彼女は私を捨て、ほかの恋人を選ぶ)となっています。

歌い手によって、歌詞が違います。

ingrat(e) : 恩知らずな、薄情な。

amant : 恋人。今のフランス語では「愛人」の意味で使うことが多いですが、古い歌や文学では、単に「恋する人」「恋人」の意味です。

2番:水は今も流れているのに、シルヴィは変わった

tant que : 〜するかぎり、〜するあいだは。

Tant que cette eau coulera doucement は、「この水が静かに流れていくかぎり」。

coulera は couler(流れる)の単純未来です。くわしくは下のプチ文法で。

doucement : 静かに、ゆっくりと。

ruisseau : 小川。

border : 〜のふちにある、〜に沿っている。

ce ruisseau qui borde la prairie で「牧草地に沿って流れるあの小川」。

prairie : 牧草地、草原。

Je t’aimerai, te répétait Sylvie : 「あなたを愛するわ」と、シルヴィはあなたにくり返し言っていた。

aimerai は aimer の単純未来で、これから先もずっと愛する、という約束です。

te répétait Sylvie は、主語の Sylvie が動詞のあとに来ています。

セリフのあとに dit-il(と彼は言った)と入れるときと同じで、会話文のあとの挿入句では主語と動詞が入れ替わります。

répétait は répéter(くり返し言う)の半過去です。ここでは、シルヴィが以前からいつも口にしていた約束を振り返っています。

ちなみに、もとの歌詞は me répétait Sylvie(シルヴィは私にくり返し言っていた)です。

L’eau coule encore, elle a changé pourtant : 水は今も流れている、それなのに彼女は変わってしまった。

encore : まだ、今も。

pourtant : それなのに、しかし。

pourtant は文の頭にも途中にも置けますが、ここでは最後に来ています。

それなのにね、と最後にぽつりとつぶやくような余韻を感じます。

この2番は、時制がたくさん出てきます。

coulera と aimerai(単純未来)はシルヴィの約束、répétait(半過去)はくり返し言っていた過去、coule(現在)は今の小川の様子、a changé(複合過去)は彼女の心変わり。

約束と現実の差が、時制の違いで描かれています。

プチ文法:tant que のあとも未来形になる

「さくらんぼの実る頃」の記事で、quand(〜するとき)のあとでも、未来のことなら未来形を使うという話を書きました。

tant que(〜するかぎり)も同じです。

Tant que cette eau coulera doucement は、これから先のことなので、coulera(単純未来)になっています。

日本語では「流れるだろうかぎり」とは言わないので、和訳では「流れていくかぎり」としました。

例:
Tant que je serai là, tu ne seras pas seul. 私がいるかぎり、あなたはひとりじゃない。

Tant qu’il pleuvra, on restera à la maison. 雨が降っているあいだは、家にいよう。

今のことや、いつでもあてはまることなら、tant que のあとは現在形になります。

Tant qu’il y a de la vie, il y a de l’espoir. 命あるかぎり、希望はある。

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*****

この歌はよく耳にするので知っていましたが、歌詞のもとが短編小説だったことは、今回調べて初めて知りました。

冒頭の2行は、ことわざのように引用されることもあります。

エルヴィス・プレスリーの「好きにならずにいられない」(Can’t Help Falling in Love)は、この曲のメロディーがもとになっています。

18世紀の歌なのに、今でも声楽の定番として歌われていて、ポップスにもなっています。

歌詞がシンプルで、メロディーがいいから、200年以上も歌い継がれてきたのだと思います。

それでは、次回の記事をお楽しみに。

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