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ドイツとフランスを見比べる番組、カランボラージュ(Karambolage)から、ラントレ・リテレール(la rentrée littéraire)を取り上げた回を紹介します。
タイトルは、La rentrée littéraire(文学のラントレ)
ラントレ(la rentrée)は、夏休みが終わって学校や仕事が始まることですが、出版の世界にもラントレがあります。
夏の終わりから秋にかけて、その年の新刊小説がいっせいに書店に並び、大きな文学賞がつぎつぎに発表される時期のことです。
4分33秒。フランス語の字幕はありますが、話している内容とかなり違うところがあります。まあ、大筋はわかります。
動画の内容
夏の終わりの憂うつな時期に、フランス人が発明した独特な習慣、ラントレ・リテレールとはどんなものか。
その中心にあるゴンクール賞の成り立ちと、秋に新刊があふれかえる現状を、皮肉をまじえて説明しています。
3ヶ月だけスターになる小説家
夏休みが終わって日が短くなる、この気の滅入る時期を乗り切るために、フランス人はラントレ・リテレールという習慣を作りました。
8月末から11月半ばまでの3ヶ月、スターは小説家です。それ以外の時期は、ミシェル・ウエルベックのような名前でもないかぎり、メディアは彼らを相手にしません。
急にもてはやされるのは、秋がもっとも権威のある文学賞の季節だからです。
コンクールのように進む選考
賞は、毎年恒例の小説コンクールを勝ち抜いた先にあります。週を追うごとに候補が絞られ、だいたい15作、10作、4作とリストが短くなっていきます。
下馬評の高かった作品が最後に落ちることもあれば、伏兵が勝つこともあります。サスペンスがあり、涙があり、そして何より論争があります。
この論争の部分は、このあとの重要フレーズで取り上げます。
もっとも、人々が憤慨する理由がないわけではありません。
動画は、大きな文学賞を特徴づけるのは透明性でも公平さでもなく、どちらかというと汚職と利益相反だ、と皮肉っています。
審査員はたいてい自分も作家で、大手の出版社から本を出しているし、受賞者もまた、いつも同じ大手の書き手だからです。
ゴンクール賞が別格な理由
数ある賞のなかでゴンクール賞は別格です。
ただし賞金は10ユーロ。動画では、1サンチームも出ないフェミナ賞やルノドー賞よりはましだけれど、アカデミー・フランセーズ小説大賞の7500ユーロにはとうてい及ばない、と紹介されています。
別格なのは賞金のせいではなく、1903年から続く古さゆえだ、というのが動画の説明です。
創設当時、小説は詩や演劇より低く見られていて、最優秀の小説を表彰するという発想そのものが画期的でした。ゴンクール賞はこの不当さを正そうとしたわけです。
秋に押し寄せる新刊の波
その試みは、少しうまくいきすぎたのかもしれません。今日のラントレ・リテレールは、何よりもまず小説のラントレになっています。
受賞作には、有名な赤い帯が巻かれます。永遠の栄光が約束されるわけではありませんが、書店の一番目立つ場所に置かれ、クリスマス前の売れ行きは確実です。
けれど、受賞できない本のほうがはるかに多く、2016年には560冊の小説がほぼ同時に出版されました。新刊の発売が1年に散らばっているドイツでは、こんなことは起こりません。
この混戦のなかで浮かび上がるのは、ひとにぎりの作品だけです。
たいていはメディアのお気に入りで、それが大手出版社の秘蔵っ子と一致するのは、奇妙な偶然というほかありません。
残りは消えていく、というより、断裁処分に回されます。
重要フレーズ
難しい構文が多い動画です。そのなかから4か所を選びました。
1. 突然メディアに呼ばれる(0:33〜)
Les voilà brusquement invités sur les plateaux télé, à la radio et les journaux leur consacrent des numéros spéciaux.
そんな彼らが、突然テレビやラジオの番組に呼ばれます。新聞や雑誌は彼らのために特集号を組みます。
voilà は「ほら〜だ」と目の前のものを指す言葉ですが、〈代名詞 + voilà + 過去分詞〉の形にすると、「ほら、彼らは〜された状態だ」という意味になります。les voilà invités で「ほら、彼らは招かれている」。
目的語の代名詞は voilà の前に出ます。me voilà(さあ来ました)、la voilà(ほら彼女です)のように使います。
et のあとは les journaux が主語の別の文です。consacrer A à B は「BにAをあてる、ささげる」で、ここでは à eux が leur になっています。
2. フランス人が何より好きなこと(1:15〜)
Car, les Français n’aiment rien tant que de critiquer les décisions de l’arbitre, en l’espèce des jurés.
というのも、フランス人は、審判(この場合は審査員)の決定を批判することほど好きなものはないからです。
ne … rien tant que 〜 で「〜ほど…なものはない」。最上級を言いかえた形です。ここは aimer なので、批判することが何より好き、ということ。
que のあとの de critiquer の de は、意味を持たない添え物のような de です。なくても文は成り立ちますが、書き言葉では入ることが多いようです。
en l’espèce は法律の文章で使われる言い方で、「本件では、この場合は」という意味。ここでは、審判といってもスポーツの話ではないので、それにあたるのは審査員ですよ、と言いそえています。
3. まねをしただけ(2:30〜)
ses cousins le Booker Prize anglais et le Deutscher Buchpreis allemand, n’ont fait que l’imiter.
いとこにあたるイギリスのブッカー賞やドイツ書籍賞は、ゴンクール賞をまねただけです。
ne faire que + 不定詞で「〜するだけだ、〜してばかりいる」。ne … que(〜しかない)の que のうしろに不定詞が来た形です。
Il ne fait que se plaindre.(彼は文句ばかり言っている)のように、あきれた気持ちをこめて使うこともよくあります。
l’ は le Goncourt 。ゴンクール賞がいちばん古く、あとの賞はその後追いにすぎない、という意味です。
なお、ノーベル文学賞は1901年に始まっているので、「世界でもっとも古い文学賞」というのは、ちょっと大げさな言い方かもしれません。
4. 審査員はどうやってさばいているのか(3:40〜)
On se demande d’ailleurs comment s’en sortent les jurés des prix pour repérer dans cette masse tous les romans qui méritent de l’être.
それにしても、賞の審査員は、この山のなかから、見つけ出されるに値する小説をすべて拾い上げるという難題を、いったいどうやって切り抜けているのでしょう。
s’en sortir は「難しい状況をなんとか切り抜ける」。
comment のあとが s’en sortent les jurés と、動詞・主語の順になっています。主語が名詞で長いときは、間接疑問文でもこうやって倒置することがあります。
qui méritent de l’être の l’ は中性代名詞の le で、前に出てきた repérer を受けています。méritent de l’être = méritent d’être repérés(見つけ出されるに値する)ということです。
単語メモ
morose 陰気な、気の滅入るような
raccourcir 短くなる、短くする
déroutant(e) 面食らわせる、とまどわせる
dédaigner 見下す、相手にしない
brusquement 突然、いきなり
retour en grâce 人気の返り咲き、また好かれるようになること
à l’issue de 〜の結果として、〜が終わったところで
en lice まだ選考に残って、競争に加わって
impartialité 公平さ、えこひいきのなさ
dotation 賞金、基金
arborer 誇らしげに掲げる、身につける
bandeau (本の)帯
tête de gondole 棚の端の目立つ陳列場所
inaperçu(e) 気づかれない、人目につかない
au bout du compte 結局のところ
poulain 子馬、(比喩で)秘蔵っ子、期待の新人
passer à la trappe 消えてなくなる、うやむやになる
pilon (本の)断裁処分
vous voyez où je veux en venir 私が何を言いたいかおわかりでしょう
プチ文法:Que … ou non で「〜であろうとなかろうと」
文頭に〈Que + 接続法〉を置き、うしろに ou non をつけると、「〜であろうとなかろうと」という譲歩の意味になります。
Qu’ils aient lu ou non les romans en question, ils s’indignent de leur élimination ou au contraire, de leur couronnement injustifié.
問題の小説を読んでいようといまいと、彼らは、その作品が落とされたと言っては、あるいは逆に、受賞は不当だと言っては憤慨します。
Qu’il pleuve ou non, je sors tous les matins.
雨が降ろうと降るまいと、私は毎朝出かけます。
Qu’elle soit d’accord ou non, la décision est déjà prise.
彼女が賛成であろうとなかろうと、決定はもう下されています。
Qu’on le veuille ou non, l’hiver arrive.
望もうと望むまいと、冬は来ます。
ou non のかわりに、両方を並べて書くこともできます。
Qu’il fasse beau ou qu’il pleuve, le match aura lieu.
晴れようと雨が降ろうと、試合は行われます。
譲歩の意味になるのは、この ou non や ou que … とセットになったときです。
〈Que + 接続法〉だけなら、Qu’il vienne !(彼を来させて)のように願望や命令を表すこともあります。
動画の文が aient lu と接続法過去になっているのは、読んだ・読まなかったのが、憤慨する時点よりも前の話だからです。
接続法現在の qu’ils lisent ou non にすると、「読もうと読むまいと」と、同じ時点の行為やふだんの習慣をさす言い方になります。
なお、この Que は「〜ということ」の que とは別のもので、うしろにコンマが来て、そのまま主節に入るのが目印です。
ゴンクール賞・関連動画
ゴンクール賞について、もう1本紹介します。アカデミー・ゴンクールの会長を務めていたベルナール・ピヴォ(Bernard Pivot)へのインタビューです。
タイトルは、Bernard Pivot : «Le prix Goncourt est le prix le plus prestigieux après le Nobel de littérature»(ゴンクール賞は、ノーベル文学賞に次いでもっとも権威のある賞)
2分17秒。フランス語の字幕は自動生成のものだけです。
・ゴンクール賞はフランス語圏だけでなく、世界的に見ても、ノーベル文学賞の次に権威のある賞だとピヴォ氏は言います
・受賞作は自動的に30ヶ国語ほどに翻訳されます
・9月初めにアカデミーが選ぶ15冊のリストから高校生が選ぶ、高校生のゴンクール賞(le Goncourt des lycéens)は、今ではいちばん本が売れる賞になっています。かならずしも本命の作品が選ばれるわけではないそうです
・1903年の第1回以来、ゴンクール賞は一度も中止になったことがありません。カンヌ映画祭やオリンピック、ツール・ド・フランスが中止になった年も続いていました
・後半は、最終候補に残った4冊について話しています
2017年のインタビューなので、話しているのはその年の賞についてです。
動画に出てくるエリック・ヴュイヤール(Éric Vuillard)の L’Ordre du jour が、この年の受賞作になりました。日本でも『その日の予定』というタイトルで翻訳版が出ています。
ピヴォ氏は2024年に亡くなりました。
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ラントレ・リテレールの動画を紹介しました。
秋になると新刊がどっと出て、賞レースで盛り上がるところは、日本の文学賞と似ていますね。
私が気になったのは、最後に出てくる pilon(断裁処分)という言葉です。
560冊のうち話題になるのはほんの一部で、大多数は気づかれないまま終わります。なかには、読まれないまま断裁処分に回る本もあるのでしょう。
れだけの数の本を年に一度に出す仕組みは、書く人にも売る人にも、ずいぶん厳しいのではないかと思いました。
ゴンクール賞の受賞作は翻訳されるものが多いです。いつか原書で1冊読んでみたいものですが、小説は文体が凝っているので難しいですね。
みなさんは、フランス語の小説を読んでいますか。
それでは、次回の記事をお楽しみに。
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