『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクの一家は、1944年8月、アムステルダムの隠れ家でナチスに発見されました。
いったい、隠れ家はどのように見つかったのか。
長年議論されてきたこの問題に、2022年、元FBI捜査官チームが一つの仮説を提示しました。今回は、そのニュースクリップを紹介します。
タイトルは、Qui a dénoncé Anne Frank en 1944 aux nazis ? Un ancien agent du FBI fait la lumière sur le drame(1944年に誰がアンネ・フランクをナチスに密告したのか? 元FBI捜査官が悲劇に光を当てる)。
ただし、このニュースで紹介されている仮説は、その後、歴史家や関係団体から強い批判を受けました。
密告者がこの人物だったと確定したわけではなく、あくまで2022年当時に報じられた一つの説であり、フランス語の勉強素材という観点で見てください。
1分52秒のニュースです。
フランス語の字幕はありませんが、アナウンサーがゆっくり明瞭に話しているし、英語のインタビュー音声にフランス語の吹き替えが重なるので、ふつうのニュースクリップよりも聞き取りやすいと思います。
動画の内容:アンネ・フランク一家の告発
元FBI捜査官率いるチームが6年がかりで調べ上げた結論として、ある匿名の手紙が浮上した、という内容。
6年がかりの調査
元FBI捜査官のヴィンス・パンコケ氏は、オランダのドキュメンタリー作家チームに雇われ、ホロコーストにまつわるおそらく最も知られたミステリーに挑みました。
アムステルダムの隠れ家がどのようにして発見されたのか。チームはらゆる仮説を検討し、調査は6年に及びました。
隠れ家生活と1944年の発覚
アンネ・フランクは、家族とともにアムステルダムの秘密のアパートに2年間隠れ、強制連行を逃れようとしていました。
この間、彼女は日記をつけていました。
結局、1944年8月、隠れ家は発見され、家族はそれぞれ強制収容所へ送られます。
匿名の手紙が示した名前
6年にわたる調査の決め手となったのは、ある一通の手紙でした。
戦後に、家族の中で唯一生還した父オットー・フランクのもとに、差出人不明で届いたものです。
手紙には、アムステルダムのユダヤ人ヴァンデンベルグという人物が、自分の家族を救うためにアンネの一家を密告した、と書かれていました。
結論を急がない声
ただし、アンネ・フランクの記憶を継承する団体は、この新説に対して結論を急ぐべきではないと呼びかけています。
研究すべきことが残っていて、ミステリーが解決したとは言えないからです。
ドキュメンタリー作家は、同じユダヤ人同士の密告という仮説が引き起こす不快感を述べています。
ベルギーの歴史学者は、標的を取り違えてはいけない。本当に責任があるのは、ヨーロッパでユダヤ人を絶滅させる仕組みを作り上げた人々だ、と言っています。
重要フレーズ
動画の中から、文法的に難しいかもと思ったフレーズを5つ取り上げます。
今回は特に受動態にフォーカスしました。プチ文法とあわせて読んでください。
1. 元FBI捜査官の起用(0:13〜)
Vince Pancoké a été embauché par des documentaristes néerlandais pour tenter de résoudre l’un des mystères qui a conduit au drame de la Shoah, peut-être le plus connu.
ヴィンス・パンコケは、ホロコーストの悲劇にまつわる、おそらく最も知られたミステリーの一つを解こうと、オランダのドキュメンタリー作家チームに雇われました。
a été embauché は受動態の複合過去で、「雇われた」という意味。動作主は par des documentaristes néerlandais「オランダのドキュメンタリー作家たちによって」と par で導かれています。
文末の peut-être le plus connu「おそらく最も有名な」は、その前の l’un des mystères(ミステリーの一つ)を最上級で形容したもの。
Shoah はヘブライ語で「絶滅」「大災厄」を意味し、ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を指す言葉として使われます。
2. 2年間の隠れ家生活(0:22〜)
Pendant deux ans, Anne Frank était cachée avec sa famille dans un appartement secret d’Amsterdam pour échapper à la déportation, période pendant laquelle elle a tenu un journal.
2年間、アンネ・フランクは強制連行から逃れるため、家族とともにアムステルダムの秘密のアパートに隠れていました。その期間に、彼女は日記をつけていたのです。
était cachée は半過去。
形の上では être + 過去分詞で、受動態と同じ形ですが、ここでは「隠されていた」というより、「隠れている状態だった」という意味です。
複合過去の a été cachée「隠れた(動作)」と区別して、状態の継続を表しています。
période pendant laquelle は「その期間に」の意味で、laquelle は前の女性名詞 période を受ける関係代名詞です。
3. 隠れ家の発覚(0:30〜)
Mais en août 1944, l’appartement a été découvert et la famille déportée.
しかし1944年8月、アパートは発見され、家族は強制連行されました。
a été découvert は複合過去の受動態です。 la famille déportée は、本来 la famille [a été] déportée ですが、前の動詞と同じ助動詞 a été が省略されています。
このように、並列する受動態で助動詞を一度だけ書くのは、フランス語によくある書き方です。
4. 決め手となった手紙(0:54〜)
L’enquête a duré six ans et c’est finalement une lettre anonyme qui a été retenue.
調査は6年に及び、最終的に決め手として残ったのは、匿名の手紙でした。
c’est … qui … の強調構文と受動態が組み合わさったフレーズです。
普通に言えば Une lettre anonyme a finalement été retenue.「匿名の手紙が最終的に採用された」となるところを、c’est … qui … で囲んで「最終的に採用されたのは、匿名の手紙だ」と主語を強調しています。
ここの retenir は「保持する、引き止める」という意味が基本ですが、「(候補のなかから)選び取る、決め手として残す」という意味でもよく使われます。
「手紙が決め手として採用された」というニュアンスです。
5. 父への手紙(1:00〜)
Ce courrier a été envoyé au père d’Anne Frank, le seul à avoir survécu au camp d’extermination après la guerre.
この手紙は、戦後ただ一人強制収容所から生還した、アンネ・フランクの父親に送られたものです。
a été envoyé は受動態の複合過去。
le seul à avoir survécu は seul à + 不定詞(〜した唯一の人)という構文。avoir survécu は不定詞の過去形で、「生き延びた」という完了の意味になります。
単語メモ
dénoncer 密告する、告発する
embaucher 雇う
Shoah ショア、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)
déportation 強制連行、強制移送
s’affronter 対立する、ぶつかり合う
retenir (候補のなかから)選び取る、採用する
héritier 継承者、相続人
malaise 不快感、違和感、不安
mettre en garde 警告する、注意を促す
cible 標的、的
extermination 絶滅、根絶
プチ文法:受動態
事件の経緯を語るニュースでは、行為者よりも何が起きたかに焦点を当てるため、受動態が多用されます。基本の作り方を整理しておきます。
■基本のかたち
主語 + être + 過去分詞(+ par / de + 動作主)
過去分詞は主語と性数一致します。
動作主は基本的に par で導きますが、感情や状態を表す動詞(aimer、entourer、couvrir など)では de を使うこともあります。
■助動詞 être を活用させて時制を変える
半過去:状態の継続
Anne Frank était cachée. アンネは隠れていた(状態)。
複合過去:起きた出来事
L’appartement a été découvert. アパートは発見された(動作)。
■自作の練習例文
Ce roman a été traduit en français. この小説はフランス語に翻訳された。
La porte était fermée à clé. ドアには鍵がかかっていた(状態)。
Le château est entouré de jardins. その城は庭園に囲まれている。(囲まれている状態を表すので de を使う例)
アンネの日記・関連動画
アンネが残した日記そのものの歴史をたどる動画も紹介します。
La vie mystérieuse du Journal d’Anne Frank(アンネの日記のミステリアスな生涯)
France Cultureの動画で、6分。フランス語の字幕もついています。
実際の日記や隠れ家の写真もたっぷり見られるます。
内容の要約:
アムステルダムの隠れ家で書かれた日記には、家族とのぶつかり合いや思春期の悩みが率直に綴られていました。
アンネは、戦時中の記録を残すよう呼びかけるラジオ放送をきっかけに、出版を意識して日記を書き直しはじめます。
そのため、最初の個人的な日記と、書き直した二つ目の日記が残っています。
1944年の逮捕の際、床に散らばっていた書類は、隠れ家を支援していた女性たちがナチスより先に拾い集めました。
戦後、日記は父オットーに託され、アンネの願いを受けて出版されました。
その後、完全版の刊行や文書鑑定を通して、日記の成り立ちや真正性も確認されていきます。
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子どもの頃に日本語訳の『アンネの日記』を読み、胸が締めつけられるような思いをした記憶があります。
誰がアンネの一家を密告したのかという犯人探しよりも、なぜ人が人を売るような社会になってしまったのか、これを考えることのほうが大事だと思います。
密告を奨励したり、特定の人々を孤立させたりする空気は、規模の違いこそあれ、今の世の中にもあるかもしれません。
人間には、他人を守る力も、見捨ててしまう弱さもあります。そのどちらを引き出すかは、個人の性格だけでなく、社会の仕組みや空気も影響します。
歴史を学ぶ意味は、同じような空気が生まれたときに気づけるようになることではないでしょうか。







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