まだまだ勉強中の身ですが、学んだフランス語を使って、何か人様のお役に立てれば、と思って、ネーミングなどの質問に答えています。
ですが、ものすごく答えにくい質問や、答えるのが面倒な質問、無礼(に思える)なメールが集中すると、やる気をくじかれます。
最近、とみに感じていることは、質問している人たちはフランス語をご存知ないので、すべての日本語をそのままフランス語に訳せると思っている、ということ。
ところてんを作るときのように、日本語をところてん突きに入れて、棒で押せば、それに合ったフランス語がにゅるっと出てくる、と思っているかのようです。
しかし、当たり前ですが、フランス語と日本語は違う言語なので、日本語にある概念が、フランス語にないことも多く、その逆もあります。
2つの言語の世界観は大きく違います。
また文章の形や表現方法が違います。
今回は、最近もらったお問い合わせを引用して、このあたりのことをご説明します。
これだけは知っておいてほしいフランス語と日本語の3つの大きな違い
まずは、日本語をフランス語に訳す時に、特に問題になる両者の違いを3つ紹介します。
1.フランス語は基本的にいつも主語がある
日本語は主語を省略することが多い言語です。目的語も省略できます。
ところてんを前にして、「嫌い!」と言えば、まわりの人は、「ああ、この人、ところてんが嫌いなんだ」とわかります。
というのも、日本語は、文脈(コンテクスト)依存の強い言語だからです。話している人たちが共有している情報が多いので、「嫌い」といっただけで、すべてがわかってしまいます。
こういう言語をハイコンテクスト言語と呼びます。
これに対して、フランス語は、ローコンテクスト言語です。英語もそうです。フランス語や英語の基本の文の形は、主語+動詞+目的語です。
誰が何を嫌いなのか言わないと、相手に通じません。
「私はところてんが嫌い」と言わないと通じないのです。
よって、日本語をフランス語に訳す時は、主語が必要です。
2.フランス語は単数と複数を明らかにする
日本語では、「リンゴが1つある」でも「りんごが3つある」でも「りんご」の形は変わりません。
しかし、フランス語では、りんごが1つなら une pomme であり、3つなら、trois pommes です。
英語と同じように物が複数あるときは、「複数なんだよ」という印がつきます(この場合はSがついています)。だから、日本語をフランス語に訳すとき、数えられるものであれば、それが単数なのか複数なのか、明らかにしなければなりません。
単数、複数の違いは、名詞だけでなく、冠詞、形容詞、動詞にも影響を及ぼします。
1つなのか、それ以上なのかということは、非常に重要なのです。
3.フランス語の名詞には冠詞がつく
冠詞とは、名詞の前につけて、その名詞に一定の限定を与える言葉です。
ゲルマン語やロマンス語などにあります。
英語の an apple の anが冠詞です。
日本語には冠詞がないため、日本語ネイティブは、冠詞を習得するのにすごく苦労します。「冠詞の使い方が100%マスターできる本」というタイトルの本がありますが、完璧にマスターなんてできないと思います。
話者がどんな気持ちで話しているか(どんな名詞を指し示しているのか)によって、つける冠詞が違います。英語ネイティブやフランス語ネイティブは、まず冠詞を思いついて(無意識でしょうが)しゃべり始めます。名詞の前に冠詞が来るので、当たり前といえば当たり前です。
しかし、英語に慣れていない日本語ネイティブは、さきに名詞を考えて、「えっと、りんごが1つだから aで、りんごは母音で始まるから anだな」と考えて冠詞をつけます。
こんなことしていると、ネイティブの話を聞く時、スピードについていけません。ネイティブは、りんごの話をしようと思ってりんごが脳内に浮かんだときに、すでに冠詞もいっしょについています。
どんなりんごであるのか、その冠詞が示しているからです。自分が話そうとしているりんごは、必ず冠詞とセットになっているのです(冠詞がつかない場合は、その名詞としては意識していない、というか、別の概念を意識しているような気がします。意識しているといっても無意識ですが)。
英語には「無冠詞」という冠詞が多いのですが、フランス語は、英語より、もっときっちり冠詞をつけます。
日本語の名詞をフランス語の名詞に訳す時には、冠詞が必要なのです。
ネーミングの場合は、最初の冠詞を省略してもいいのですが、文中に出てくる冠詞は省略できません。
だから、どんな気持ちで話しているのかわかる日本語を書いてもらわない限り、適切に訳せないのです。
また、冠詞は、その名詞の数によって形が変わるし、フランス語の場合は、部分冠詞というのもあります。
これまで、私は、単数、複数、適切な冠詞がわからないときは、単数ならこう、複数ならこう、不定冠詞の単数ならこう、不定冠詞の複数ならこう、定冠詞の単数ならこう、定冠詞の複数ならこう、と考えられるケースをすべてお答えしていました。
想像つくと思いますが、これ、けっこう面倒な作業です。
単語1つならいいですが、フレーズが3つも4つも5つあるとそれなりに負担です。
それなのに、何個も単語を書いてくる人や、前後の文脈なしに、「この日本語の文をフランス語に訳してください」とか、「このフランス語の文を日本語に訳してください」と、ぼんと私に投げる人がいます。
和文仏訳も仏文和訳も文脈が必要です。
長々と前後の文脈があっても、それはそれで大変ですが、短文を投げられても答えることはできません。
そういう質問には、「もしこういうふうなら、こんなふうな意味になりますが、こういうふうにも考えられます」という答え方をしてきました。
それから、もともとの日本語の意味があいまいな質問もひじょうに困ります。以前、「自然体で自然派な育児」というコンセプトの入っているフランス語を教えてくれ、と言われたことがあります。
これ、日本語の意味からしてすごく曖昧じゃないですか?
そんなこんなで私はすっかり疲れてしまいました。
最近私は、問い合わせフォームに、「☆和文仏訳、仏文和訳の無償サービスは行っておりませんので、ご了承願います」という一文をつけました。その背後には、こんな事情があるのです。
また、人に質問するのに、名乗りもせず、挨拶もしないメールもたくさんあります。これはこれで、「何だかなあ」と思います。
ワクワク・ドキドキはフランス語で何と言う?
以上の違いを踏まえて、最近もらったお問い合わせをみてみましょう。すでに、ご本人にはメールでお返事しています。Kさんよりいただきました。
題名: フランス人らしいい言いまわしを教えてください
お問い合わせ内容 :質問
メッセージ本文:
こちらです。
1出会い(ガレットデロワというお菓子との出会いをさします)
2ワクワク、ドキドキ
3感激
4緊張
5五感を使う
6人と人を繋ぐ
7そして未来を繋ぐ
こんな感じで簡単なタイトルをつけたいのですが、可能でしょうか。
よろしくお願い致します。
このお問い合わせ見て、どう思いますか?
挨拶なしでいきなり、エッセイのタイトルを7つも訳せと書いています。
「よろしくお願いします」と書かれていますが、正直、なぜ私がよろしくお願いされなければならないのか、と思ってしまいます。
ご本人には悪気はないとは思いますが。
それに、日本語ネイティブの私に向かって、「フランス人らしい言い回し」を教えろ、と言っています。
私、フランス人じゃないので、そんなのわかりません。フランス語は、もう5年以上勉強していますが、亀の歩みです。
とはいえ、私は基本、親切なので、お答えのメールを出しました。
フランス語は間違っているかもしれませんが、それは仕方のないことです。フランス人らしいきちんとしたフランス語を知りたいなら、翻訳サービスをやっているところに頼むべきです。
そういうところにはフランス人のスタッフもいるでしょう。
私の回りには、フランス人をしゃべる人はいません。いつも自分の脳と、電子辞書とGoogle先生をたよりに、答えています。
以前は、微妙なフランス語がわからないときは、Facebookで聞いたりしていたのですが、先にも書いたように、私は疲れたので、もうそんなことはやっていません。
以下が私の返答です。
はじめまして。penです。
お問い合わせ、ありがとうございます。
>どう言ったら最もフランスらしくなるか教えていただけますでしょうか。
私は、日本語ネイティブであり、フランス人ではないので、もっともフランスらしくなる表現はわかりかねます。
フランス人に聞いてください。
一応、私なら下記のように訳しますが、フランス人らしいいいまわしかどうかは保証しません。
フランス語は日本語と違って、動詞を使う場合は、その前に主語をつけなければなりません。そのあたりは調整してください。
また、名詞には定冠詞をつけておきましたが、意味によっては不定冠詞のときもあります。
たとえば、出会いは
「1つの出会い」なら une rencontre
「その出会い」なら、 la rencontre
定冠詞か不定冠詞かは文脈によって変わります。
1出会い la rencontre ラ ランコントレ
2ワクワク、ドキドキ tressaillir de joi トレサイール ドゥ ジョワ(喜んでわくわくすること)このような擬態語は、フランス語にはありません。
tressaillir は動詞なので、主語を立てて活用させてください。
私はワクワクする、なら Je tressaille de joi. ジュトレサイユ(トレサーユ)ドゥジョワ。
3感激 l’émotion レモシオン
4緊張 la tension ラ トンシオン
5五感を使う éveiller ses cinq sens エヴェイエ セ サンク ソンス
五感を目覚めさす、という意味です。これも、主語をつけて、主語に合わせて動詞を活用させるべきです。
主語がわからないので、不定形を書いておきました。
五感の持ち主もわからないので、ses (彼の、彼女の、彼らの、彼女らの)にしておきました。
もし「私」が自分の五感を使うなら、
J’éveille mes cinq sens. (ジェベイユ メ サンク ソンス)となります。
6人と人を繋ぐ
人と人とは、2人の人ということでしょうか?
複数の人ならば、relier des personnes ルリエ デ ペルソンヌ
もし、具体的な人たちをつなぐなら、relier les personnes ルリエ レ ペルソンヌ
この文も5番と同じで、主語をまず立てて relier を活用させてください。
動詞の活用は辞書等で調べることができます。
あるいは、人は人とつながれる、と「人」を主語にすることもできます。
7そして未来を繋ぐ
未来をつなぐとは、いったい何とつなぐのでしょうか?それによって訳し方は変わってきます。
過去と未来を結びつけるのであれば、et le futur est relié au passé エ ル フチュール エ ルリエ オ パセ 直訳:未来は、過去と繋がれている
いつもブログをごらんいただき、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
pen
私としてはベストを尽くしてお返事しましたが、このメールに対して、とくに返事はありませんでした。
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pen様
はじめまして!一年くらい前から読者になりました。いつも沢山の情報をもらいながら何のお返しもできずに。。。ですがこの記事を読んで自分の事のように腹がたちました。依頼主さんはこれからブログか何かを立ち上げるのか知りませんが、こんな失礼な方は、長い人生のどこかで神様がきっちりぺしゃんこにして下さいますわ( ̄ヘ ̄メ)だって、自分は何も頭つかわずに先ずは人を利用、って人に「未来」や「人を繋ぐ」なんんて。。。ぷぷって感じです。pen様お疲れ様でした。これからも沢山の仏語学習者の皆様に素晴らしい環境を提供して下さいね(●^o^●)因みに、私もpen様と同年代の仏語学習者のはしくれ。そして30年前にバンクーバーのコミカレを卒業した者です。不思議な縁を感じます。。。
Noemiさま
はじめまして。penです。
コメントありがとうございます。
いや、この方はそこまで悪気はないと思います。
このあと、メールをいただき、
もう2つ質問されました。
また、追記しますね。
そのメールには、お礼が書いてありました。
ほかの方も、全く悪意はないと思うのですが。
30年前ですか。その頃、私はまだ日本におりました。
私がこちらのコミュニティカレッジを卒業したのは
1998年です。
これからもよろしくお願いいたします。
pen
こんばんは。
「よろしくお願いします」を、してしまった私も、神様にぺしゃんこにしてもらわないとダメですね。
何とか、挨拶ぐらいはできるようになりました。
あの時は、本当にありがとうございました。
Asさま
こんにちは。penです。
わざわざコメントありがとうございます。
また、何かありましたらお気軽にメールください。
以前 メールでお返事いただいて学習を続けていました その節は有難うございました
2年ほど前から体調がすぐれず しばらく休養していましたが久しぶりにHPを見ました
いろいろあるとは思いますが 先日 誰かが言っていました
何を得たかを評価する社会は危険で 何を与えたかが大切だと
Penさんは質問に答える事で相手の方にいろいろ与える事の出来る素敵な人だなあ と思っています
文字だけでは伝わらない事や誤解を招いたりと 顔のみえないコミュニケーションは特に気をつけなくてはと常に心がけていますが 相手にはどのように伝わっているのかな と思う事も多いです
これからもHP楽しみにしています
Maryさん、こんにちは。
お久しぶりです。
体調をくずされていたのですね。
もう大丈夫ですか?
>何を得たかを評価する社会は危険で 何を与えたかが大切だ
そうですね。
いい言葉だと思います。
まあ、私はそこまで立派な人間ではないですが、
今も質問には回答しております。
最近、ブログの更新がスローすぎますが、
末永く、よろしくお願いいたします。
pen
ペンさん
かくも長きご無沙汰の後のメールのため、ペンさんのご記憶には無いと思いますが、以前に、一度質問をさせて頂きました。
その節は、ご丁寧にありがとうございます。
本業の菓子屋が忙しく、暫く勉強から遠ざかりましたがまた細々と再開したところです。
さて、生意気ながら、こちらの件につきまして、自戒の意味も込めてメッセージさせてください。
悪気がなく、曖昧な日本語からフランス語訳を求める方は、言語に対する興味が無い上に、ものを訊ねる姿勢が理解できていないと思います。質問内容が言葉の羅列で、質問者様が何を求めているのかが曖昧です。
答えが欲しいなら、質問の書き方にももっと時間をかけて、フランス語訳をする為に必要な背景をペンさんにお伝えすべきかと思いました。たとえ、断られるかもしれなくても、それだけの姿勢を見せなくては、答えは手に入らないはずではないでしょうか?
また、ペンさんがフランス語訳を仕事として請け負っていらっしゃるのではなく、誰かの役に立ちたいからやっている、というお立場である事を、事前に知ろうともしていません。
でも、不親切な態度を取りたくないという気持ちからキチンと対応された事にただただ、素晴らしいと感じます。
私もこれからの人生において、成し遂げたい事、学びたい事がたくさんあります。その時に、どなたかに力を貸してもらえないかお願いするとき、この件を肝に銘じたいと思います。
これからも、ペンさんの講座を楽しみにしています。
長文、失礼いたしました。
モコさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
モコさん、覚えていますよ。
ご商売が繁盛していて何よりです。
確かに、質問する人は悪気はないでしょうね。
ただ単にちょっと想像力が足りないだけで。
数年前に、仏訳はしない、と決め、そう名言しているので、
一時期に比べて質問はずいぶん減りました。
これからも、何か私で役に立つことがあれば
やっていこうと思っています。
モコさん、長くブログを読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
pen