これまで英語に慣れていた人(多くの日本人はそうだと思います)が、フランス語の勉強を始めて、違和感を感じるものの1つに、綴り字記号(つづりじきごう)があります。
綴り字記号は、アルファベの上についている、飾りのような、印刷の汚れのような、点や棒のことです。
セデューユ(ç)のように、下側についているものや、トレ・デュニオン(-)のように真ん中あたりに出現するものもありますが、たいてい文字の上についています。
一見、気まぐれについている風ではありますが、実は、これもつづりの一部なので、無視はできません。
今回は、綴り字記号の中でも、かなり独特のアクサン・シルコンフレックス(accent circonflexe)に焦点をあてます。
アクサン・シルコンフレックスって何?
アクサン・シルコンフレックスは、être の最初の e の上についている山形の記号です。
フランス語では、petit chapeau (小さい帽子)、または chapeau chinois(中国の帽子)と呼ばれることもあります。
アクサン・シルコンフレックスは、ほかのアクサン(アクサン・テギュとアクサン・グラーブ)に比べて、ひときわ名前が長いのでタイプするのがしんどいため、このあとは、ACと頭文字で記します。
ACは、y以外のすべての母音に出現します。
â ê î ô û
î は i の点をとって、アクサンをつけます。
ただし、2016年に、アカデミー・フランセーズが、「今後、学校では、こういうスペルを教えますから、よろしく」と、フランス語のスペリングを部分的に変えることを発表し、î と û の上には、もうつけなくてもいい、という単語がいくつかあります。
たとえば、 ‘août,’ ‘goûter,’ ‘chaîne’ この3単語にACはもうつけなくてもいいことになっています。
ただ、私は古いスペルに慣れているので、この記事では、昔ふうのスペリングで書いていきます。
べつにアクサンをつけても、間違いではないですし、人によっては、新しいスペルは大きな抵抗を感じると思います。
アクサン・シルコンフレックスは何のためについているのか?
ACにはいくつか機能があります。
1)ほかのアクサンと同じように、長母音をあらわすためについている
a, e, o についているとき、その母音を長めに読むことが多いです。
たとえば、fête
2) 同音異義語を区別するためについている
たとえば、une tache しみ、汚れ、une tâche 仕事、タスク
3)うしろに別の文字(多くの場合、S)があったよ、というしるし
ACがついていると、昔は、そのうしろに文字があったけれど、時間がたつうちに読まなくなり、そのうち、つづりから消えた、ということを示す場合があります。
たとえば、「森」という意味の une forêt (フォレ) の ê のあとに Sをおぎなってみると、forest となり、「ああ、フォレストか、森だ」、と納得するわけです。
フォレストは、英語の参考書の名前にもなっているぐらい、基本的な単語で、誰でも知っています。まあ、フォレも、ラフォーレ原宿で、有名ですが。
この複雑な事情を知っていると、英語と関連付けることができ、ACのついている単語の意味を覚えるのが多少早くなるのではなかろうか、と思います。
また、ACのついていない、フランス語の派生語と結びつけることもできるので、その分、語彙が増えます。
そこで、実はここまで前置きだったのですが、Sをおぎなうと、覚えやすくなったり、語彙が増えたりする仏単語をいくつか紹介します。
Sをおぎなうと語彙が増えるかもしれない単語
arrêter ~をやめる un arrêt 停止 - une arrestation 逮捕 ☆英語の arrest のよくある意味は、逮捕する、ですが、フォーマルな文書では、止める、という意味でも使われます。
un bâton 棒 - une bastonnade 棒で連打すること、棒打ちの刑
une bête (人間以外の)動物、家畜 - bestial 獣のような、un bestiaire 古代ローマの闘獣士;動物誌
une conquête 征服 - un conquistador コンキスタドール(16世紀にメキシコ・ペルーを征服したスペイン人の総称)、英語の conquest 征服
une côte ろっ骨 - intercostal 肋間(ろっかん)の
une côte 海岸 - accoster (船が埠頭やほかの船)に横付けする、~にドッキングする 英語の coast 沿岸
une croûte パンの皮、パイ皮 - croustiller (パンやお菓子が)かりかりとした音をたてる、 croustillant かりかり音のする、英語の crust パンの皮、パンの耳、パイ
☆クラストは日本語にもなっていますね。
une fenêtre 窓 - défenestrer ~を窓から突き落とす、une défenestration 窓からの転落
une fête 祭り - un festin 宴会、ごちそう、un festival フェスティバル festival は、もと英語の仏単語です。
goût 味 - gustatif 味に関する
un hôpital 病院 - l’hospitalité 人を自宅に無料で宿泊させること、もてなすこと、ホスピタリティ hospitalier 病院の(形容詞)
英語のhospital です。ただし、フランス語はHを発音しないので、オピタルです。
une île 島 - l’Islande アイスランド共和国、英語の island 島。
アイスランドは島国なので、覚えられるのではないでしょうか? 海に流氷が浮かんでいるからそういう名前になった、と言われていますが。
un maître 先生、主人 - un master マスター、原本、(欧州共同体の)修士課程。もと英語です。
un pâte 生地、パスタ、ペースト - 英語の paste ペースト、pasta パスタ pastaはもとイタリア語。
prêter ~を貸す - une prestation 給付、手当
un vêtement 上着 - un vestiaire (劇場などの)クローク、vestimentaire 衣服の
関連記事もどうぞ⇒フランス語のアクサン(つづり字記号)と句読点のまとめ
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今回は、アクサン・シルコンフレックスについて書いてみました。
人間は習慣の動物なので、最初は、「つけるの面倒だな」と思っていても、慣れると、今度はつけないと気持ちが悪くなります。
よって、私は新しいスペリングはとても違和感があります。
昔、カナダの短大で、中国語を2年ならったことがあります。
1年目は、台湾出身の先生で、繁体字(はんたいじ、簡略していない漢字)を習い、2年目は、中国本土出身の先生に、簡体字(かんたいじ)を習い、めちゃくちゃ混乱しました。
日本人としては、繁体字のほうが、なじみやすいですね。
まあ、最近は、母語の漢字も忘れてしまい、満足に書けなくなってしまい、困っています。
いつもためになる記事を有難うございます。
グランドシニアなので覚えるそばから忘れて行くのが
残念です。
2013年の記事ですが、ドゥポアンとポアンヴィルギュルの説明が逆になっています。
こーちゃんさま
はじめまして。penです。
コメントありがとうございます。
このブログに読者がいることを知り、うれしく思います。
ドゥポアンとポアンヴィルギュルが逆になっていたのは、
「句読点を使うときのスペースの開け方」のところですね。
いま、修正しました。
ご指摘、ありがとうございます。
pen