今日、ご紹介するフランス語のことわざはこちらです。
ふたが見つからないほどひどい鍋はない。
Il n’est si méchant pot qui ne trouve son couvercle.
ふたが見つからないほどひどい鍋はない
このことわざは、日本のことわざで言うと「割れ鍋(われなべ)にとじぶた」です。
もしかしたら、若い方は「割れ鍋にとじぶた」をご存知ないかもしれないですね。
きょうは、まずこちらを解説します。
「割れ鍋」は文字通り割れた鍋。鍋といっても、シチューを作るような西洋風の鍋ではなくて、土鍋だと思います。
割れた土鍋など使い道がないようですが、それでも「とじぶた」というパートナーはいます。
「とじぶた」は「綴じ蓋」。繕って修理したふたです。「綴じる(とじる)」は「紙を糸でひとまとめにする」、という意味のほかに、「縫い合わせる」という意味もあり、「破れを綴じる」「口を綴じる」と言う使い方もしますね。また「卵とじ」の「とじる」もこの「綴じる」です。
「とじぶた」は修理したふただから、木製でしょうか?
これは江戸のいろはがるたの「わ」の札に書かれています。
たまに「閉じぶた」という漢字をあてているものがありますが、厳密に言うとこれは間違いです。
意味は、「割れた鍋にも修理したふたがあるように、どんな人にもその人にふさわしい相手が見つかるものである」ということ。
また、「自分にふさわしい伴侶とは自分と似た境遇の人がよい、分不相応な相手とはうまくいかない」、という意味もあります。
フランス語のほうは、「ひどい鍋でも、それに合うふたは見つかる」という意味で、「割れ鍋ととじぶた」の関係とほぼ同じです。
よくわかる!フランス語の解説
単語の意味
Il n’est ~ はない
Il est は文章のみでの表現で、~がある = il y a
例)Il était une fois ~ 昔々~があった、いた。
(お伽話の出だしの決まり文句)
n’はne で est とエリジオン
neは否定を表します。
むかしは、neだけで、否定を表すこともありました。
ne trouve の neも、単独で使っている否定のneです。
est は être ~がある
si (強調) とても
méchant (古い使い方、名詞の前で)価値のない、取るにたりない
pot (古い使い方)鍋
potの今の意味は、壺(鉢、かめ、瓶、缶)です。鍋はcasserole(片手鍋)marmaite (両手鍋)。鍋という意味で使うpotは poule au pot (チキンのポトフ)という表現などに残っています。ただし、このことわざでは、potを「鍋」としても「壺」としても、いいと思います。
qui 関係代名詞 ~するところの
trouve < trouver (探していたものを)見つける
son その
couvercle ふた 男性名詞
直訳
「ふたが見つからないほど価値のない鍋などない。⇒どんな鍋であろうとも、ふたは見つかる。」
補足
trouverはER動詞で、3人称の場合、直接法現在形も接続法現在形も同じ活用なので、一見わかりませんが、このことわざのtrouveは接続法です。
「ふたが見つからない鍋はない」と否定しているのは主観的な表現だから、という説明になります。
文法用語に免疫のある人むけの説明:
関係代名詞節で前の名詞を説明しているとき、主節が否定なら、関係代名詞節の動詞は接続法です。
ほかの例)
この問題を解決できるような人は誰もいない。
Il n’y a personne qui puisse résoudre ce prblème.
●ほかのことわざはこちらから⇒フランス語のことわざ・名言
英語では
Every Jack has his Jill.
どんなジャックにもジルがいる。
というのが同じ意味のことわざです。
ロワイヤル仏和中辞典では
Il n’est si méchant pot qui ne trouve son couvercle.
の訳として、「どんな醜い娘にも結婚相手は見つかる」とのっていました。
この場合pot(鍋)を女性としています。きっと、古くはそういう意味で使われることが多かったのでしょう。しかし、potを男性としているイラストもありました。ちなみに、potもcouvercleもともに男性名詞です。
いずれにしても、このことわざは日本の「割れ鍋にとじぶた」と同じように、古いので書物や新聞などには出てきても、あまりに日常会話には登場しないかもしれません。
今、相手がいなくてさみしいあなたも、いつか自分にあった相手が見つかることになっています。希望を持って日々、暮しましょう。
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