海岸

フレンチポップスの訳詞

フリーダ・ボッカラ、Cent mille chansons (サン・ミル・シャンソン)の訳詞。

1996年8月1日に55歳の若さで亡くなってしまったフランスの女性歌手、フリーダ・ボッカラ(Frida Boccara)の Cent mille chansons (サンミルシャンソン)を紹介します。

彼女は若いころ声楽を学んでいた、正統派シャンソン歌手です。

Cent Mille Chansons (10万の歌)

1968年、フリーダが28歳ごろリリースした歌です。歌詞つきの動画です。

クラシカルな名曲ですね。

では訳詞に挑戦!

10万の歌

10万の歌が生まれるでしょう
季節が10万回巡ったら
10万の恋人たち
私たち2人によく似ている
真っ青な大地に横たわり
私たちだけの10万の歌
私たちの前に広がる10万の地平線
幸せを分かち合いながら
私たちの心はしっかり見える
そして素晴らしい城
そして星の輝く船
そして忘れられた星
そしてあなたの瞳と私の瞳
愛の海の中にある

10万の歌が生まれるでしょう
季節が10万回巡ったら
10万の家
あなたの名前が刻まれている
大地から取れた作物の中で
私たちだけの10万の歌
私たちの前に広がる10万の地平線
幸せを分かち合いながら
私たちの心はしっかり見える
そしてよく知られた土地
そして狂おしい森
そして禁じられた悲しみ
そしてあなたの瞳と私の瞳
愛の海の中にある

単語メモ

pareil à  よく似た

étalé  陳列された、広げられた、並べられた

insensé  非常識な、ばかげた、とっぴな;ものすごい、とてつもない、すばらしい

moisson   刈り入れ、収穫;収穫物

reconnu  世に認められた

éperdu  半狂乱の、取り乱した;(感情が)激しい

défendu  守られた;禁じられた

文法プチポイント

この歌に出てくる動詞はたった2つでともに単純未来形です。

aura < avoir

viendra < venir

単純未来の説明はこちら⇒「まいにちフランス語」36:L58 単純未来その1

動詞が少ししかないから訳すのが簡単かというと、そういわけでもありません。

形容詞と名詞の結びつきが詩的というか突飛だからです。詩人ではない私はうまく訳せませんでした。

Tout étalé de nos cœurs これは直訳すると「心のしっかりとした展示」あるいは「きっちり展示された心」です。

愛情がしっかり見えるということなのでしょうか?

「私たちの心はしっかり見える」なんて訳にしてしまいましたが、お互いの愛情がありありと見える状態かと思います。

それから、châteaux insensés とか forêts éperdues もわかりにくいです。

要するに、2人の愛がつむぎだす世界には、大地やら森やら海や星があり、それは10万回季節がめぐるほど続くし、海みたいに深いのよ、ということなのでしょう。

フリーダ・ボッカラについて

フリーダ・ボッカラなんて日本では誰も話題にしないかもしれませんが、温かい声をもったとても歌のうまい歌手です。

ボッカラは1940年モロッコのカサブランカで生まれました。

イタリア系のユダヤ人です。

音楽一家だったようで、兄(弟かも)も姉(妹かも)もミュージシャンで、最初は3人でトリオを組み、カサブランカで音楽活動をしていました。

しかしパリで勝負をしたくなったフリーダは、パリにやってきて声楽を習ったりコンクールに出たりします。その後ミュージックホールに出演するようになり、レコードも出します。

最初はどちらかというとフランス以外の国でコンサートをして、それなりに成功しました。

1968年に発売したCent mille chansons はゴールドディスクを獲得しています。

彼女の人気が決定的になったのは、1969年に ユーロビジョン・ソング・コンテストもフランス代表として出場し、Un jour un enfant (リラの季節) という曲でで1位になってからです。

リラの季節

彼女はクラシック音楽を学んだ正統派のシャンソン歌手。69年~72年ぐらいまではすごく人気があり、レコードもよく売れました。

しかし、70年代はロックやフォークソングが台頭した時代。ボッカラのような音楽性を持つ人は、「古い人」と取られがちでした。

もしボッカラが40~50年代にデビューしていたら、もっと大物のシャンソン歌手になっていたかもしれません。「リラの季節」などが大ヒットしただけで充分、大物と言えそうですが。

実は Cent mille chansons は、以前、冒頭の部分だけ、数字の記事で訳しており、そちらにも簡単なプロフィールを書いています⇒フランス語の数字【第38回】6桁の数字

こちらには、彼女がテレビで Cent mille chansons を歌っているクリップを紹介していますが、サイケな服装やセットの中で歌っており妙にミスマッチです。

そんなわけで、70年は売れなかったので、次第にコンサートもしなくなりレコードも80年ぐらいまでしか出していません。

コンピレーション・アルバムなどはその後も数枚でています。

そして1996年に病気で亡くなりました。それ以前から、体調が悪かったようです。

Cent mille chansons のジャズアレンジ

Cent mille chansons の作詞は、フリーダ・ボッカラの曲をたくさん作詞しているEddy Marnayという人、作曲はフランスの映画音楽の作曲家、ミシェル・マーニュ(Michel Magne)。

この曲はもともとは、ロジェ・バディム監督の「戦士の休息」(Le Repos du guerrier)(1962)のテーマ音楽として作られ、それを後に、フリーダ・ボッカラが歌いました。

マーニュはバディム監督の要望にこたえて、バッハの『マタイ受難曲』ふうの曲にしました。

「戦士の休息」は、上でリンクした数字の記事で紹介しています。

今回は、オランダのジャズ・ピアニスト、ルイス・ヴァン・ダイクトリオの演奏を紹介します。亡くなって21年たつ、フリーダ・ボッカラの魂にささげたいと思います。

6分です。

Cent mille chansons を最初のほうしか訳していなかったので、ずっと気になっていました。ようやく最後まで訳せてよかったです。

実はまだ数曲、数字の記事で紹介しただけで、きっちり訳していない曲があるので、また少しずつ訳していきますね。






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