1967年のジャック・ドゥミ監督の映画、『ロシュフォールの恋人たち(Les Demoiselles de Rochefort)』から、Chanson de Simon(シモンの歌)と、Chanson D’Yvonne (イヴォンヌの歌)を紹介します。
この映画では、いくつかのカップルのすれ違いがでてきますが、シモンとイヴォンヌもそうしたカップルの1つです。
10年前、2人は婚約していましたが、シモンの名字が原因で、イヴォンヌは、彼の元を去ってしまいました。
歌の旋律は両方とも一緒で、歌詞はそれぞれの言い分が入っている箇所がちょっとだけ違っています。
作詞は、ジャック・ドゥミ、作曲はミシェル・ルグラン。
Chanson de Simon
映画のワンシーン、3分30秒。歌が始まるのは35秒あたりから。
3分31秒。
それでは訳詞に挑戦!
Ma fiancée trouvait mon nom très ridicule
Il la choquait, je crois, alors, sans préambule
Un soir, elle est partie, sans un mot, sans adieu
Mes yeux depuis dix ans n’ont plus croisé ses yeux
Elle m’avait appris dans le plus doux moment
Qu’elle attendait de moi l’heureux événement
Qui enorgueillit l’homme et anoblit la femme
Mais elle refusait le nom de Madame Dame
Pourtant je lui plaisais, je l’appelais ma muse
Mais je ne savais pas, le poète s’amuse
Qu’un nom comme le mien pût l’agacer autant
Je ne l’ai pas compris, hélas, au bon moment
J’étais un beau jeune homme, elle une demoiselle
Qui sans le faire exprès avait eu des jumelles
Que je n’ai jamais vues, elles vivaient en pension
Et ne rentraient jamais le soir à la maison
Quelques années plus tard, par un ami commun
J’ai su qu’un étranger sollicitait sa main
Ils partirent tous deux quelque part au Mexique
Pour vivre leur amour au bord du Pacifique
A présent je suis seul comme un amant déçu
J’ai voulu voir la ville où je l’avais connue
Je m’y suis installé, et depuis j’y demeure
Avec mes souvenirs, je joue à cache-coeur
シモンの歌・訳詞
私の婚約者は、僕の名前がすごく変だと思ったんだ
彼女はショックを受けたと思う。で、突然
ある晩、行ってしまった、言葉もなく、さよならさえ言わず
この10年、彼女に会っていない(僕の目が彼女の目と合うことはない)
彼女は僕に、教えてくれた。一番幸せだったときに
私からの幸せなできごとを待っていてくれたことを
男に誇りをもたせ、女性を気高くさせることだ
しかし、彼女は、マダム・ダムという名前を拒否したんだ
それでも、私は彼女が好きで、私のミューズと呼んでいた
でも、私は知らなかったんだ、詩人は面白がる
私の名前が、あんなに彼女をいらだたせるなんて
彼女がわからなかった、ああ、肝心な時に
私は美青年で、彼女は娘だった
彼女は、意図せずにできた双子の娘がいた
その双子には会ったことがない、全寮制の学校に行っていたよ
夜になっても、双子は決して家に帰ってこなかった
数年後、共通の友人から
外国人が、彼女にプロポーズしたことを知った
2人はメキシコのどこかに行ったのさ
太平洋の沿岸で愛を育むために
今は、私は1人で、失望した恋人のごく
彼女と知り合った街を見たかったから
そこに腰を落ち着け、以来、ずっとここにいる
思い出と一緒にかくれんぼをしているのさ
Chanson D’Yvonne
歌が始まるのは、1分35秒あたりから
3分49秒
Mon fiancé avait un nom fort détestable
Et ce nom m’agaçait plus qu’il n’est supportable
Alors, je l’ai quitté, sans un mot, sans adieu
Il y aura dix ans que j’ai brisé ce nœud
Je lui avais appris dans le plus doux moment
Que j’attendais de lui l’heureux événement
Qui anoblit la femme et enorgueillit l’homme
Car Boubou s’annonçait, pauvre petit bonhomme
C’était un beau jeune homme, et j’étais demoiselle
Bien que j’aie eu déjà par hasard mes jumelles
Qu’il ne connaissait pas, elles vivaient en pension
Et ne rentraient jamais le soir à la maison
Quelques années plus tard, par un ami commun
Je lui ai fait savoir qu’un riche Mexicain
Me proposait l’amour au bord du Pacifique
Ce n’était qu’un mensonge amer et pathétique
A présent je suis seule et je n’ai plus vingt ans
J’ai voulu voir la ville où mon amour d’antan
Avait connu le jour, je m’y suis installée
Avec mes souvenirs épars et désolés
イヴォンヌの歌
私の婚約者は、すごく嫌な名前だったのよ
その名前は、彼が耐えられないほど、私を悩ませたの
だから、彼のもとを去ったわ。何も言わず、さよならも言わずに
関係を断ってから、そろそろ10年になるわ
私は彼に教えたのよ。一番幸せだったときに
彼からの幸せなできごとを待っていたことを
それは女性を気高くし、男性に誇りをもたせた
だってブブが生まれたから。かわいそうな子
彼はハンサムな若者で、私は娘だった
たまたま、私にはもう双子の娘がいたけれど
彼は双子を知らなかった、寄宿学校に入っていたから
双子は、決して夜、家に帰ってこなかったから
数年たって、共通の友だちに
彼に知らせてもらった。金持ちのメキシコ人が
太平洋の沿岸で私にプロポーズしたと
でも、それは苦くて悲しい嘘にすぎないわ
今、私は1人だし、もう20歳でもない
街を見たかった、昔の恋人が
生まれた街を。そして、私はそこに腰を落ち着けた
とりとめのない悲しい思い出といっしょに
単語メモ
sans préambule 前置きなく、いきなり
enorgueillir 高慢にさせる、慢心させる
anoblir 爵位を授ける;高貴にする、気高くする
put - pouvoir 単純過去
agacer いらだたせる、神経にさわる
s’annoncer ( 話)出し抜けにやってくる、人が到着を告げる
un antan 昔、往年
épars 散らばった、ばらばらな
『シモンの歌』『イヴォンヌの歌』の補足
ミシェル・ピコリ扮するシモンは、ロシュフォールで、楽器屋をやっています。歌は、吹き替えです。
イヴォンヌは、同じ街で、カフェを経営しています。イヴォンヌ役のダニエル・ダリューは歌がうまいので、本人が歌っています。
この2つの店はわりと近いのですが、2人はなかなか出会いません。
シモンが話しているきれいな女性は、イヴォンヌの双子の娘の1人、ソランジュ(フランソワーズ・ドルレアック)です。
娘は楽器店で、母親のかつての恋人であり、ちょっと年の離れた弟の父親と話し込んでいるわけです。
イヴォンヌが、シモンのもとを去ったのは、シモンが、シモン・ダム(Simon Dame) という名前だったからです。
結婚すると、マダム・ダムになるから、それが嫌だったのです。
まるで落語ですが、女性が、自分の下の名前と、好きな人の名字をくっつけて、いろいろ夢想することは、ありがちなことです。
l’heureux événement は、「幸せなできごと、幸せな機会」ですが、性交渉のことでしょうね。
しかし、歌詞では、「幸せなできごと」としておきました。
これが起きた結果、イヴォンヌは男の子を身ごもり、それがブブ(Boubou)です。
ブブという名前のほうが、日本人的には、マダム・ダムより、変に聞こえるけど、フランス語的にはそうでもないのでしょう。
この映画は、ミュージカルなので、ミシェル・ルグランの作った素敵な曲をたくさん聴くことができます。
すれちがいの話と言っても、『シェルブールの雨傘』みたいな悲しい映画ではなく、楽しい映画です。
ロシュフォールの恋人のあらすじなどは、別のブログに書いているので、興味がある方は、そちらをごらんください⇒ロシュフォールの恋人たち:ジャック・ドゥミ監督(1967)の感想。
2014年に、『双子姉妹の歌(La Chanson Des Jumelles)』を紹介したことがあります。
『双子姉妹の歌(ロシュフォールの恋人たちより)』~「虎と小鳥のフランス日記」第53話 その1
『双子姉妹の歌』を訳したのは、7年前で、フランス語を勉強し始めて、そんなに時間がたっていなかったせいか、1曲訳すのに、なんと4つも記事を費やしています。
まあ、『双子姉妹の歌』は、シモンの歌やイヴォンヌの歌より、歌詞が長いのですが。
ほかに、この歌も訳しています⇒歌と訳詞:『水夫、友だち、恋人、または夫』 Marins, Amis, Amants Ou Maris
関連記事もどうぞ:
わが心の風車(風のささやき):ミシェル・ルグラン(歌と訳詞)
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南フランスの港町、ロシュフォールに、夏のある日、サーカス団がやってくるところから、この映画は始まります。
夏場に見ると、より楽しめる映画かもしれません。
私は、この映画のDVDを持っていますが、ストリーミングで見るほうが簡単なので、DVDはほとんど使いません。
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