プロバンス地方で伝統的にクリスマスのごちそうのあとに食べる13種のデザートを紹介します。
フランス語では Les Treize Desserts de Provence
なぜ13なのかというと、キリストと12人の使徒をあわせて13です。
フランスの南東部、地中海に面したあたりはプロバンス地方と呼ばれます。夏場の保養地として有名ですね。
ローマ人の支配から独立してプロバンス王国になったのは9世紀。フランス王国に併合されたのは15世紀です。
では、レ・トレーズ・デセールをごく簡単に説明している動画とスクリプト、その和訳を紹介します。
プロバンス地方の13のデザート
長さは1分38秒
Parmi les traditions de Noël qui restent toujours vivantes en Provence, nous trouvons les fameux 13 desserts.
Pas de bûche ni de vacherin glacé ou autre mignardises. mais des choses simples, servies en abondance en présage de prospérité.
Les 13 desserts sont présentés le 24 au soir et dégustés au retour de la messe de minuit.
Chaque convive se doit de les goûter tous.
Ils sont donc au nombre de 13, comme les convives de la Cène, les 12 apôtres autour de Jésus puisqu’il s’agissait au départ d’une tradition chrétienne.
La liste est toujours l’objet de discussions, d’autant qu’elle variait selon les villes et les villages.
Certains éléments restent cependant immuables : la fougasse ou pompe à l’huile, les fruits secs, noix, amandes, figues sèches et noisettes.
Leurs couleurs rappelaient celles des robes des Ordres mendiants : Augustin, Franciscain, Carmélite et Dominicain.
Parmi les symboles religieux, on trouve aussi le nougat blanc pour la pureté et le bien, et le nougat noir pour l’impur et le mal.
Rajoutons ensuite à notre liste les fruits confits ou la pâte de coing, les oreillettes, les dattes, les mandarines, du raisin et des pommes et notre compte est bon.
De quand remonte cette tradition ? Je ne saurais vous le dire.
La plus ancienne trace des 13 desserts remonté à 1683 lorsqu’un curé de paroisse d’un quartier de Marseille les cite mais sans en donner de chiffre dans son explication des usages et coutumes.
スクリプトの和訳
いまでもプロバンス地方に残っているクリスマスの伝統の中に、有名な13種のデザートがあります。
ブッシュドノエルでもヴァシュラン(お菓子の名前)でもほかのお菓子でもありません。繁栄を願ってたくさん出されるシンプルなお菓子です。
13のデザートは、24日の夜に出され、真夜中のミサから戻ってから食べます。ゲストは13種すべてを食べなければなりません。
13という数字は、キリストの最後の晩餐の客、つまりキリストと12人の使徒の数であり、キリスト教の習わしから始まりました。
13種の種類は都市や村によって違うため、いつも議論の的になります。
それでも、変わらず登場するものがあります。フーガスまたはポンプ・ア・リュイル、ドライフルーツ、くるみ、アーモンド、干しいちじく、ヘーゼルナッツです。
これらの色は、托鉢修道会の修道士の服の色を連想させました。聖アウグスチノ、フランチェスコ、カルメル、ドミニコです。
宗教的なシンボルとしては、白いヌガーは純正と善を表し、黒いヌガーは不純と悪を表します。
これらにさらに、砂糖漬けの果物やマルメロのゼリー、オレイエット(揚げ菓子の一種)、デーツ、マンダリン(みかん)、レーズン、りんごが加わり、13になります。
この伝統はいつ始まったのでしょうか? 正確なことは言えません。もっとも古い13のデザートは1683年までさかのぼります。
マルセイユの教区の司祭がこのデザートの話をしたときです。ただ、このデザートのあり方や習慣について、数字には言及されませんでした。
単語メモ
vivante 生きている
vacherin glacé ヴァシュランのアイスクリームケーキ。泡立てた生クリームやアイスクリームを詰めたメレンゲ主体のケーキ。もともとはアルザス地方のお菓子です。
こんな感じ↓
mignardises ミニャルディーズ、コーヒーと一緒に出される食後の小さなスイーツ。
présage 前兆、予兆、前ぶれ、予測
convive (食事に招かれた)客、会食者
La Cène キリストの最後の晩餐
immuable 不変の、変化しない、一定の
orders mendiants 托鉢(たくはつ)修道会。13世紀以後、ヨーロッパで組織されたカトリックの修道会。清貧を理想とし、托鉢で布教します。
托鉢とは、お坊さんがお経を唱えながら、各家の前に立って、食べ物や金銭を鉢に受けて回ること。mendiant は「乞食」という意味です。
また、mendiant という名前のデザートもあります。これは、13種のデザートにも出てくる、アーモンド、干しいちじく、干しぶどう、ヘーゼルナッツ(はしばみの実)の4つからなります。
fruits confits 砂糖漬けの果物、フリュイ・コンフィ
coing マルメロの実
pâte ペースト状のもの、ねりもの pâte de coings マルメロのゼリー
oreillettes 揚げ菓子の一種。oreilletteは帽子についている耳の覆い(おおい)のことです。たぶん、その形からオレイエットと呼ばれるようになったのでしょう。
curé カトリックの主任司祭、神父
paroisse 小教区、司祭区
お菓子の説明・その他の補足
フーガスはほんのり甘みのある平べったいパンです。厳密にいうとフーガスは甘くないと思いますが、13のデザートにでてくるフーガスは甘いです。
ポンプ・ア・ルイルもフーガスみたいなものです。
作り方の動画を紹介します。750gの動画です。
はじめにシェフデミアンが、「13のデザート、言える?」と聞いています。
ポンプ・ア・リュイルには、オレンジの花のエッセンス(eau de fleur d’oranger)をいれます。南仏は温暖なのでフルーツや花は豊富です。
伝統的には地元産のオレンジの花のエッセンスを使うのだと思います。
このパンは、小麦粉に砂糖、オリーブオイル、水、塩、オレンジの花のエッセンスを入れただけのシンプルなものです(卵は入らない)。
また、オレイエットも揚げ菓子なのでこったデザートではありません。
13のデザートを構成するものは、こうした粉もののほかは砂糖漬けのフルーツ、干しフルーツ、生のフルーツ、さらにナッツ類です。
マルメロのゼリーも、「マルメロゼリー」ときくとこじゃれたデザート風ですが、マルメロの日持ちをよくするためにゼリー状にしてあるだけです。
ヌガーは砂糖と水飴やはちみつを煮詰めたところに、メレンゲ(卵白を泡立てたもの)を加えたねっとりしたお菓子で、中にくるみなどのナッツを入れます。以前、こちらでレシピを紹介しました⇒モンテリマールのヌガーの作り方:フランスのお菓子(31)
13のデザートは種類の数こそ多いものの、地元でたくさん取れるものを利用したごく質素なお祝いと言えます。昔は、甘い物はそんなに食べませんでしたから、当時の人々にとっては「大ごちそう」だったとは思いますが。
ビッシュドノエル⇒ブッシュ・ド・ノエル~フランスのお菓子~その2(後編)~作り方つきや、ヴァシュラングラッセは生クリームをふんだんに使いますが、南の地方では、畜産を行わないので、生クリームやチーズは入手しにくいです(昔はね)。
牛は高温多湿の場所が苦手なので、涼しいところで育ちます。
よって、南仏では生クリームを使ったケーキではなく、近場でとれるフルーツやナッツを利用したお菓子を食べてきたわけです。
また、托鉢修道士は清貧をよしとしていたので、豪華な食べ物に身をやつすなんて、考えられなかったことでしょう。
いま、クリスマスは世界的に商業主義にまみれており、大々的なお祝いをするイメージがありますが、もともとはキリストの生誕を祝う宗教的な行事だったので、13のデザートも派手なものではなかったはずです。
13のデザートは、伝統的には24日の深夜、ミサから戻ってから食べ始め、クリスマス中も食卓にあるデザートですが、最近は、もっと早くから、お菓子やさんやパン屋さんの店頭に並んでいます。
現在は、どれも手に入れるのは難しくないものばかりですから、通年である、とも言えます。
動画で、「ゲストはすべて食べなければいけません」とありましたが、これは、少しずつでも13種のデザートをすべて口にすると、翌年、幸運や繁栄、健康に恵まれる、という言い伝えがあるからです。
13のデザート、参考動画
実際に13のデザートを見せている動画
最初に紹介した動画はスライドで構成されていましたが、こちらは実際に食べ物を見せながら名前を説明しています。
わりとゆっくりしゃべっているし、基本的には最初の動画と同じことを話しているので、最初の動画をしっかり学習すれば、聞き取りは楽だと思います。
2分34秒。
13のデザートは、ミサのあとから食べ始め、その後、3日間、テーブルに出して食べていた、と言っています。
トレーズデセールの由来を語っている動画
最初に、フランスのほかの地方のクリスマスのデザートを紹介しています。4分13秒
ポンプ・ア・リュイルは手でちぎって食べなければだめ、と言っています。キリストがそうやってパンを分け与えながら食べたからです。
13のデザートは Vin Cuit (ヴァン・キュイ)とよばえるぶどうの汁を加熱して作ったワインと一緒に供されます。
ポンプ・ア・リュイルはこのワインにひたしながら食べます。
***
日本でも、お節料理のひとつひとつに意味があるように、13のデザートにも、それぞれが象徴するものがあるのですね。とても興味深いです。
この記事へのコメントはありません。