トマ・フェルセンの«Juillet»という曲を紹介します。
彼はフランスでは人気ありますが、日本ではあまり知られていないですね。独特のアーティスティックな世界観を持つ歌手です。
なかなか二枚目で、声はしわがれ気味。日本ではマニアなファンが多いと思います。
では、曲を聞いてください。
Juillet
3分5秒
彼の歌詞は文学的です。「詩」になっていて、言葉遊びが多く、訳すのが難しいんですね。
フランスのシンガー・ソングライターの中にたまにいるタイプです。たとえば、セルジュ・ゲンスブールとか。
前回の歌と訳詞:Savoir Aimer~フローラン・パニーも難しかったんですけど、あれは内容が哲学的だったので、いったい何をいいたいのかよくわからない難しさ。
トマ・フェルセンの詩は、比喩の意図するものが、感覚としてわかっても、ぴったりあった日本語にできない難しさ。
難しさにもいろいろありますね。
だから、あまり取り上げたくない人なのですが、«Juillet»はシンプルでやさしいかなと思い、チャレンジしてみます。
デビュー当時の曲で、まだあんまり自分の世界に深く入り込んでないゆえのシンプルさでしょうね。
Juillet 訳詞
最初のフレーズだけ原詞を引用します。
Juillet
7月
Le ciel est si tendre,
Le ciel est si doux.
Les oiseaux chantent,
Le soleil est roux.
La brise est mourante,
Le tremble s’ébroue.
C’est juillet, c’est juillet
Partout.
空がとってもやわらかい
空がとっても心地よい
鳥は歌い、
太陽は赤茶色
風はものうげで、
ポプラが震えている
それは7月、それは7月
どこもかしこも
ああ、僕の恋人よ。絶好の機会だ
すべてが君を待っているかのよう
ここで、すべての真ん中で
きみはびっくりする
素っ裸で
それは7月、それは7月
どこもかしこも
ああ、僕の恋人よ、僕達の前にあるのは
夏のパーティが
永遠に続く日々
この野原のまんなかで
愛しあおう
それは7月、それは7月
どこもかしこも
夜になると
空は急いで、黒いシャツをまとう。
雷雨の準備がととのい
雨が降りそうだ
僕の国に
酔うほどの雨が
それは7月、それも7月
歌詞はこちらを参照願います⇒Paroles Juillet de Thomas Fersen | Textes et Clips – MusiKiwi.com
単語メモ
tremble ヨーロッパヤマナラシ(ポプラの一種)
ヤマナラシは「山鳴らし」から来てると思うんですが、ヨーロッパでも日本でも葉っぱがふるふる震えて、かさかさ音がするのだと思います。
s’ébrouer (馬が)恐怖などで荒い鼻息を出す
tomber des nues びっくり仰天する、甘い夢から現実に立ち返る
このnueと裸のnueをかけているのだと思います。和訳には特に工夫してないのですが。
enfiler (衣服などを)すばやく身に付ける
mûr 熟した
2行めのLe ciel est si doux.
何も考えない訳だと「空はとても甘い」ですが、このdouxをどう訳すか考えて、30秒は宙を見つめました。
douxは甘くなければ、やさしい、おだやか、甘美、温和な・・いろいろあるのですが、空に結びつくやつってなんだろ。。。と考えていたわけです。
二行目にしてこの歌詞を訳しはじめたことを後悔しましたが、やはり彼の歌詞の中ではかなりやさしいほうだと思います。
トマ・フェルセンとは?
この曲はトマ・フェルセンの1993年のデビュー・アルバム、”Le Bal Des Oiseaux”(鳥たちの舞踏会)に収録されています。
彼は1963年生まれなので、そのとき30歳。デビュー以前にバンドを組んだり、ピアノバーで歌ったり、10年以上音楽活動をしていました。
下積みが長かかったともいえます。ソロデビュー後はずっと評判のいいアルバムを作り続けています。マイペースで独自の世界を紡いでる感じです。
曲調は、そのアルバムによって違い、フォークっぽかったり、ジャズふうだったり、いろいろです。
彼の詩には動物や植物がよく出てきて、アルバムジャケットも動物がフィーチャーされています。
ちなみに、芸名のThomasはスコットランドのグラスゴー出身のサッカー選手、トーマス・”トム”・ボイド(Thomas “Tom” Boyd)から、Fersenはマリー・アントワネットの愛人であった、スエーデンのハンス・アクセル・フォン・フェルセン(Hans Axel von Fersen)より取ったのだそうです。
このように、彼は独特のユーモアの持ち主です。
★こちらで「こうもり」という曲も訳しています。
⇒歌と訳詞:こうもり~トマ・フェルセン 前編
この手の歌詞を訳すのは疲れますが、いつも使っていない脳のどこかを使っているようで、それが妙にクセになる楽しさがあります。
フランス語力をつけつつ、また彼の歌にチャレンジするつもりです。
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