フランス文学の巨匠ギ・ド・モーパッサンの生涯を取り上げた動画を紹介します。
タイトルは、Qui était Guy de Maupassant ?(ギ・ド・モーパッサンは誰?)
短編の名手として知られるモーパッサンの生涯を、4分でたどる動画です。師匠フローベールとの出会い、出世作「ブール・ド・スイフ(脂肪の塊)」の成功、そして晩年の苦悩まで、テンポよくまとまっています。
ギ・ド・モーパッサンは誰?
長さは4分です。
動画の内容
■生い立ちと少年時代
モーパッサンは1850年、ノルマンディー地方の小貴族の家に生まれました。母親は文学に造詣が深く、作家フローベールとも親交がありました。
両親の別居後、母とともにエトルタに移り住み、自然の中でのびのびと少年時代を過ごしています。
■普仏戦争とパリへ
1870年に普仏戦争が勃発すると、モーパッサンは兵站部や砲兵隊に配属され従軍します。
戦後はパリに定住し、海軍省、のちに教育省で官僚として働きながら、毎晩執筆を続けました。
■フローベールとの師弟関係
パリ時代、フローベールは文学の師としてモーパッサンを指導しました。
モーパッサンはセーヌ川での舟遊びや狩猟に夢中になりすぎて、師に注意されることもあったようです。それでも、ゾラ、マラルメ、ツルゲーネフ、ゴンクールといったパリの文学者たちとの交流も深めていきました。
■作家としての成功
1880年、自然主義の作家たちによる共同作品集「メダンの夕べ」に短編「ブール・ド・スイフ(脂肪の塊)」を発表し、大きな成功を収めます。
同年にフローベールが急逝し、モーパッサンは深い悲しみに暮れました。
その後の10年間で、6つの長編小説と300以上の短編、さらに複数の旅行記を発表しています。代表作「女の一生」は商業的にも大成功を収め、「ベラミ」「ピエールとジャン」といった長編も高い評価を得ました。
■晩年と死
モーパッサンは1877年から梅毒を患いました。さらに、晩年は視力の低下や幻覚に苦しみました。
療養を重ねながらも最後の長編「われらの心」を発表しますが、1892年に自殺未遂を起こして入院。翌1893年に亡くなりました。42歳でした。
重要フレーズ
動画の中から、少し難しいと感じたフレーズを4つ紹介します。
1. 子どもは3人(2:01〜)
Il aura d’ailleurs 3 enfants dont il ne reconnaîtra pas être le père.
彼は3人の子どもをもうけたが、自分が父親であるとは認知しなかった。
aura は avoir の単純未来形ですが、ここでは未来のことではありません。
伝記でよく使われる歴史的未来(futur historique)と呼ばれる用法で、後に〜することになる という意味になります。
dont は関係代名詞で、dont ここでは de + 名詞 を受けています。
3 enfants dont = de ces enfants
2. 遊びすぎて怒られる(2:10〜)
Il consacre tellement de temps aux loisirs que Flaubert le rappelle à l’ordre.
彼は娯楽にあまりにも時間を費やしたため、フローベールにたしなめられた。
tellement … que … は あまりに〜なので… という結果を表す構文です。tellement de temps で「非常に多くの時間」となります。
rappeler à l’ordre は慣用句で、注意する たしなめる という意味。直訳すると「秩序に呼び戻す」ですが、行動を正すよう促すニュアンスがあります。
3. 自然主義運動への参加(2:27〜)
Il participe au recueil collectif du mouvement naturaliste.
彼は自然主義運動の共同作品集に参加した。
recueil collectif は共同作品集。recueil は作品集や文集、collectif は複数の作家による共同の という意味です。
du mouvement naturaliste は 自然主義運動の。du は de + le の縮約形で、所属やジャンルを表しています。この作品集が「メダンの夕べ」です。
4. 「女の一生」の成功(3:04〜)
Après Une Vie, dont le succès commercial rivalise avec celui des Misérables, …
「女の一生」は商業的成功が「レ・ミゼラブル」に匹敵し、…
ここでも dont が登場します。先行詞は Une Vie で、「その商業的成功が」と続きます。
rivaliser avec は〜と張り合う 〜に匹敵する。
celui は指示代名詞(男性単数)で、ここでは前に出てきた succès commercial を受けています。celui des Misérables で「レ・ミゼラブルの(成功)」という意味になります。
単語メモ
noblesse 貴族、貴族階級
s’installer 身を落ち着ける、住みつく
hostile à 〜に敵対的な、反感を持つ
immoral(複数形 immoraux) 不道徳な
intendance 兵站部、軍の補給・管理部門
artillerie 砲兵隊
instruction publique 公教育(省庁名としても使われる)
suif 脂肪
saluer 挨拶する、称賛する、歓迎する
récit 物語、記述、紀行文
pérenne 永続的な、持続する
abouti 完成された、成熟した(動詞 aboutir の過去分詞から派生)
cure 治療、療養
syphilis 梅毒
interné 収容された、入院させられた
モーパッサンの主な作品
動画で登場した作品名をまとめました。
La Main d’écorché(皮を剥がれた手) 1875年の初期短編
Boule de Suif(脂肪の塊) 出世作となった短編。「メダンの夕べ」所収
Une Vie(女の一生) 商業的に大成功した長編
Bel Ami(ベラミ) 代表的な長編小説
Pierre et Jean(ピエールとジャン) 最も完成度が高いとされる長編
Notre Cœur(われらの心) 晩年の最後の長編
プチ文法:代名動詞
この動画では、代名動詞(verbe pronominal)がたくさん出てきます。
代名動詞は se + 動詞の形で、フランス語の日常表現にも文学的な表現にも欠かせないものです。
動画から実際の例を紹介します。
再帰的用法(自分自身に対する動作)
Elle se sépare de son mari infidèle.
彼女は不実な夫と別れた。
séparer は「分ける、引き離す」ですが、se séparer de で「〜と別れる、〜から離れる」という再帰的な意味になります。
Il part s’installer définitivement à Paris.
彼はパリに永住するために出発した。
installer は「設置する」ですが、s’installer で「身を落ち着ける、住む」になります。
受動的な表現(〜される)
Il se fait renvoyer pour avoir écrit des vers immoraux.
不道徳な詩を書いたことで退学させられた。
se faire + 不定詞で「〜される」という受動的な意味になります。
その他の例
動画にはほかにも代名動詞がいくつも登場しています。
sa santé se détériore(健康が悪化する)
il s’engage dans le conflit(戦争に参加する)
代名動詞は、日本語の「〜する」と「〜される」の両方の意味を表せます。
関連記事⇒「まいにちフランス語」27:L49 代名動詞 その1
自然主義・関連動画
モーパッサンが属した自然主義(ナチュラリスム)について、わかりやすくまとめた短い動画も紹介します。
Le naturalisme | L’essentiel en moins d’une minute 1分。
要約:
自然主義とは、19世紀フランスで生まれた文学運動です。ダーウィンの進化論や科学の発展に影響を受け、社会や人間を科学的に観察し、その行動の原因と結果を作品で示そうとしました。
中心人物はエミール・ゾラ。人間の行動は環境・遺伝・社会条件によって決まるという考え方(決定論)に注目し、「ジェルミナル」「ナナ」などの作品で労働者の厳しい生活や社会問題を描きました。
ロマン主義的な理想化を退け、現実をより客観的に表現することを目指した運動です。
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文学や小説に関する言葉:かわいいフランス語教えます(120)
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わずか10年ほどの間に6つの長編と300以上の短編を書いたというのは、驚くべき量です。しかも、どの作品もおもしろいと評判です。
私は「女の一生」と短編をいくつか翻訳で読みました。
モーパッサンは、師匠フローベールのもとでかなり厳しい特訓を受けたらしいです。
もともとの才能に加えて、一流の作家にとことん鍛えられ、本人も努力したので、素晴らしい小説を書けたのでしょう。
動画では、遊びすぎてフローベールにたしなめられたというエピソードもありました。
でも、戦争への従軍、官僚としての仕事、パリ文学界での交流、旅行など、さまざまな体験をしたことが作品の豊かさにつながっているのかもしれません。
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