今週、フランスではバカロレア(Baccalauréat)という試験が行われています。 通称 bac バックと呼ばれるこの試験は、フランス全国規模の統一試験で高校を修了したことを認定し、大学入学資格を与えるものです。
この試験に受からないと大学に入学できません。試験は専攻の分野に分かれていて筆記と面接(口頭試問)があります。
先月、ラジオ講座の応用編(La vie, au rytheme des événements)のダイヤローグでこの試験に受かった女の子とおじいさんの会話が出て来ました。
フランスの年中行事とも呼べる試験です。bacは試験のことでもあり、取得した資格のことでもあります。
こども新聞に2013年のbacについて書かれた短い記事がありましたので訳してみました。
2013年のバカロレア試験:知っておくべきこと
Baccalauréat 2013 : ce que tu dois savoir
月曜日から、664,709人の高校生がバカロレア試験を受験しています。今週中ずっと、受験者は最長4時間にも及ぶ試験にのぞみます。
安心してください。きみたちがバシュリエ(bachelier バカロレア取得者)になるまでにはまだ時間があります。きょうはbacの逸話をいくつか紹介しましょう。
ジュリー=ビクトール・ドビエ
これは1861年に初めてbacを取得した女性の名前です。昔は女性はこの試験を受験する資格がありませんでした。ドブレはオノーラブル(良)という成績(マンション mention)で合格しました。
「勇気とは何か?」
bacにまつわるもっとも有名な逸話の一つに、哲学の試験の「勇気とは何か? Qu’est-ce que le courage ?」という問題の答えの話があります。
言い伝えによると、ある受験者は「勇気、それはこれです。(Le courage, c’est ça.)」と書いただけでした。そしてこの受験者はものすごくいい成績を取ったというのです。というのも、彼は、ほとんど空白の答案を提出する勇気があったからです。
91歳
これは今年の受験者の最年長の年齢です。200年のバックの歴史の中で、91歳の人が受験するのは初めてのことです。
400万枚
今年の先生たちが、採点する答案の数です。これはマルセイユの人口のほぼ2倍です。すごい枚数です!
口頭試問の追加科目
という訳でいいのかな。原文はPlus d’oralです。
2013年に新設されたものです。今年の受験者は口頭試問の追加科目を受けなければなりません。この科目の中には、かなり特殊な言語が含まれています。たとえば、スエーデン語、ブルトン語、タヒチ語などです。
ところで、ブルトン語で「さようなら Au revoir」を何というか、知っていますか?「ケナボ Kenavo」と言うんですよ。
探知機
バカロレア試験で不正を行うことは禁止されています。もし、カンニングをしているところが見つかったら、この試験を数年間受験することができなくなります。
不正を防ぐために、中学校では携帯電話の探知機を設置しています。というのもスマートフォンを使えばいとも簡単にカンニングできますからね。試験に合格するためには、昔ながらの方法を使うほうがいいのです。それは「復習する」ことです。
元記事 → Le baccalauréat 2013 expliqué aux enfants
バカロレアに関する補足
前述のラジオ講座によれば、2011年のbacの合格率は85%以上で、取得は難しくないそうです。
bacを持っているかどうかはフランス社会でかなり重要視されるとのこと。
以下、テキストから引用しました。
…ne pas l’avoir c’est s’exposer à la honte et constitue un grave péché que la société nous reprochra jusqu’à la fin de notre vie. Quoi ! T’as pas ton bac ?
bacを持っていないのは恥だし、社会で一生責められることになる、重大な罪のようなものだ。「え?あなたbac持ってないの?」ってね。
高校を修了したことを認定する試験なので、大学には行かなくても、みんなbacを受験するのでしょうね。ちなみに、いっぺんにすべての科目をパスしなくてもいいらしく、今年の最年少受験者は12歳です。
bacはすべて筆記式試験で、特に有名なのは最初(月曜日)に行われる哲学の試験です。
これがわれわれ日本人には日本語でも答えられんだろ、という代物です。
大学で哲学を専攻すれば別でしょうが、bacは高校卒業資格試験なので、受験者は15歳前後と若いのですよね。
Les sujets du bac philo 2013に今年の哲学の問題がのっていました。
上から、文学、科学(science=理数系)、社会経済専攻の学生用の問題で、三つの中から一つ選んで論じます。
Série L
・Le langage n’est-il qu’un outil ?
・La science se limite-t-elle à constater les faits ?
・Explication d’un texte de Descartes extrait de “Lettre à Elisabeth”.
・言語は道具にすぎないのか?
・科学は単に事実を確認するものであるのか?
・デカルトの「エリザベトの書簡」の一つを論じなさい。
Série S
・Peut-on agir moralement sans s’intéresser à la politique ?
・Le travail permet-il de prendre conscience de soi ?
・Explication d’un texte de Bergson extrait de “La pensée et le mouvant”.
・政治に無関心のまま人は倫理的に行動できるのか?
・仕事は人に自意識をもたらすのか?
・ベルグソンの『思想と動くもの』の一つを論じなさい。
Série ES
・Que devons-nous à l’Etat ?
・Interprète-t-on à défaut de connaitre ?
・Explication d’un texte d’Anselme extrait “De la concorde”.
・国家に必要なものとは?
・物事を解釈することは、それを知ることを妨げるのか?(でいいのかな^^;)
・アンセルムスの「ドゥラコンコルド」の一節を論じなさい。
アンセルムスを知らなくて、仏和辞典で調べたところ、11世紀(~12世紀)のイタリア出身の神学者であり哲学者です。
きっとフランスの高校の哲学の教科書にはこの人のことがのっているんでしょうね。
こんな問題、スマートフォンをいくつ持っていても解けない気がします。論文を書くのですから。
このように「今年の哲学の問題はこれだった」とメディアにのり、人々が話題にしています。
それだけ、バックの哲学の問題はフランス国民の関心の的だということですね。
Penさん、こんにちは。
興味深い記事でした。
日本の受験制度や受験勉強について
考えさせられてしまいますね・・・
暗記偏重から「考える力をつける」という
教育方針が打ち出されてはいますが
この哲学のような問題に15前後で答えられる
生徒はまれでしょうねえ。
まあ、基礎知識あっての、こうした応用力なので
暗記学習も否定はしないのですが。
良い記事をありがとうございました♪
月子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
フランスの学校の試験ってずっと記述式で、
中学ぐらいから、文学を含め、いろいろな作品の解釈だけでなく、
分析、批評を学んでいくようです。
日本のセンター試験は答えは一つですが、
こうした哲学の試験は答えがいろいろある(あるいは答えがない)
ので、自分の考えを論理的に記述できれば、そこそこ点数はとれると思います。
日本の学校でももう少し、考える時間があっても
いいかもしれないですね。いつも答えが一つってのはいかがなものかと。
しかし、大学受験があのような形で行われる以上、無理かも・・。
日本は、能率とか効率化が大事な国ですもんね。
マークシートの答案も機械で採点していますし。
*「否定」の変換ミス、編集して、もう一つのコメントは消しました。
ご丁寧にありがとうございます。
penさん、かえってお手数おかけしてスミマセン。
「答えは1つ」・・・うん、そこに縛られると
生き難くなるかもしれませんね。
長男のクラスに、日本とフランスを行ったり
来たりしていた男の子がいたので、
(お母さんが日本人でお父さんがフランス人)
フランスの教育制度についてはちょっと聞いたり
していたんですよね。
彼は飛び級して中学校に上がってしまい
すごく学校が忙しくてもう今年から来れなく
なってしまったようですが。
意外とこんな田舎でも、ハーフのお子さんって
何人かいるんですよ~。小さな国際交流です。
月子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おお、日仏ハーフのお子さんのお友達がいらしたのですね。
バイリンガル教育ですね。
そういうの、とても大変だと思います。
これからますます人種の融合のようなものは世界的規模で増えていくでしょうね。
月子さん、前も週間マーガレットの話のとき、田舎だとおっしゃってましたが、
そうなんですか?
コメントのことはお気になさらずに。自分で編集できないの不便ですよね。
私も、ミスタイプしまくりです・・