ボート

フレンチポップスの訳詞

スザンヌ:フランソワーズ・アルディ(歌と訳詞)

フレンチポップスを聞きながら、フランス語に親しむシリーズ。今回は、フランソワーズ・アルディのSuzanne(スザンヌ)という曲を紹介します。

この曲は、レナード・コーエンの歌をフランス語でカバーしたものです。

オリジナル、フランス語版とも有名です。

スザンヌ

テレビのショーで歌っているところです。この曲を発表したのは、1968年発売のアルバムなので、その頃かと思います。

シンプルで美しい曲ですね。

それでは、和訳に挑戦!

スザンヌはきみを連れていく
人魚の声を聞きに
彼女は君の手をとる
終わらない夜を過ごすために

彼女は半分、狂っているんだけど
だからこそ、君はそこにいたいんだ
銀のお盆で
彼女はジャスミンティーを君に出す
君が彼女に話したいと思うとき
君には彼女への愛はない
彼女は、自分の波長の中へ君を呼ぶ
そして海に答えさせる
ずっとずっと、君は彼女を愛していたと

君は彼女のそばにいたい
いま、もう君は旅することを恐れない
目を閉じて
きみの心の中に、炎が燃え上がる

昔、罪人がいた
彼は丘にあがり
長い間、寝ずの番をした
人里離れた塔の上で
道に迷ったものだけが、彼を見ると
罪人にわかったとき
彼は言った。私たちは船旅をするだろうと
波が私たちを自由にするまで
しかし、彼自身はうちひしがれていた
空が開くずっと前に
疲れをいやし、もう少しで1人の人間になろうというとき
彼は、人々の知恵の下に沈んでしまった
まるで石のように

君は彼女のそばにいたい
いま、もう君は旅することを恐れない
目を閉じて
きみの心の中に、炎が燃え上がる

スザンヌはきみを連れていく
人魚の声を聞きに
彼女は君の手をとる
終わらない夜を過ごすために

はちみつのように、太陽の光がふりそそぐ
泣いているノートルダムに
彼女は、君に探す場所を教える
ゴミの山の中、そして花々の中
海藻の中に、夢がある
子どもたちがいる、朝はやく
愛について思いをめぐらす
彼らはそうやってずっと考える
そしてスザンヌは、鏡を持っている

君は彼女のそばにいたい
いま、もう君は旅することを恐れない
目を閉じて
心には、奇妙な傷をもち

単語メモ

onde  波、波動

veiller  徹夜する;寝ずの番をする

voguerait (voguer 条件法現在) 航行する、さまよう

délasser  疲れをいやす、気晴らしを与える

couler  (船、人が)沈む、おぼれる

sagesse  賢明さ、思慮分別;知恵

pleurs  涙

déchet   くず、かす、廃物

algue  藻類、海藻

se pencher 傾く、身をかがめる

訳を間違えているかもしれないところ

罪人(pécher)が出てくるくだり、コーエンのオリジナル(あとで動画を貼ります)はこうなっています。

And Jesus was a sailor when he walked upon the water
And he spent a long time watching from his lonely wooden tower
And when he knew for certain only drowning men could see him
He said all men will be sailors then until the sea shall free them
But he himself was broken, long before the sky would open
Forsaken, almost human, he sank beneath your wisdom like a stone

よって、アルディ版の罪人はイエス・キリストのことなのだと思います。

sagesse は「知恵」ですが、votre sagesse は、あなたたちの知恵、つまり民衆の知恵(sagesse des nations)だと思います。民衆は無知なので、文脈次第では、軽蔑的に使われます。

ばかな民衆のせいで、キリストは沈んでしまったのです。

Dans les algues il y a des rêves
Des enfants, au petit matin
Qui se penchent vers l’amour
Ils se penchent comme ça, toujours

歌詞を直訳すると

藻の中に夢がある、
子どもたちがいる、朝早く
子どもたちは愛のほうに身を傾ける
彼ら(子どもたち?)はこんなふうに身を傾ける、ずっと

となります。

ただ、se pencher sur には、「~を考えこむ、検討する」という意味もあるので、「愛についてあれこれ考えている」というふうに訳しました。

まず、スザンヌが「君」と呼ばれる自分に、何かを探す場所を指し示します。

ゴミの中や、花々の中を探せ、というわけです。

いろいろ探していたら、藻の中に、夢が見つかった。その夢の中では、子どもたちが、朝の光の中で、ずっと愛のことを考えている。そこには、鏡を持ったスザンヌがいる

こんな情景です。

なんで、突然、鏡? と思いますが、スザンヌは半分気が狂っているらしいし(気が狂っているというより、当時のヒッピー文化を考えると、グルービーなのりの人だったのでしょう。スザンヌには、独自の波長がある、と歌詞からもわかります)、

単に目にゴミが入ったかして、鏡を見ていたのかもしれません。

まあ、よくわかりませんので、まったく的外れの解釈をしている可能性もあります。

フランス語の歌詞は、韻を踏ませるためだけに、言葉を選ぶことがあるので、そこまで意味にこだわらないほうがいいです。

どんな気持ちで書いたかは、書いた本人にしかわからないので、「これは違うんじゃないですか?」とメールを送ってこないでください。

ここの ils を スザンヌと「君」のこと、と解釈することもできます。

スザンヌ:レナード・コーエン

ライブで歌っている動画です。

Suzanneにはモデルがいます。

その人は、本当にSuzanneという名前で、どこの誰かということもわかっています。本人が、コーエン(1934-2016)との関係について、インタビューに答えたこともあります。

スザンヌはコーエンの友人の奥さんだった人ですが、お互いにひかれあっていました。

ある時、コーエンは、スザンヌに招かれ、彼女の部屋をたずねました。そのときのことを歌ったのがSuzanneです。

歌詞に、For you’ve touched her perfect body with your mind 「君は、心で彼女の完璧な身体にさわった」とあるように、2人の関係はプラトニックなものだったそうです。

この曲は、まず詩として1966年に発表され、同じ年に、当時の恋人、ジュデイ・コリンズがレコーディングしヒットしました。

翌年、1967年にコーエン自身も、自分のデビュー曲としてレコーディングしました。コーエンは、カナダのモントリオール出身で、最初は詩人であり小説家でした。

しかし、まったくお金にならないので、30歳ごろに、アメリカに渡り、いろいろあって歌手になりました。最初はカルトな人気を獲得するぐらいでしたが、次第に人気が出て、そのうち世界的に有名なシンガーソングライターになりました。

カナダで勲章をもらっているし、ロックの殿堂入りもはたしています。

とはいえ、残念ながら、日本ではそこまで評価は高くないかもしれません。

さて、動画の中で、歌う前に、コーエンが、「自分はこの曲の権利を持っていない」と話しています。

コーエンは、友達にだまされて、この曲の著作権を失ってしまったのです。

しかし、昔の個人的な思い出を歌ったこの歌(とてもヒットしました)で、金もうけをせずにすんでかえってよかったよ、と言っています。

実は、Suzanneは、ほかのミュージシャンにカバーされることが多いコーエンの曲の中でも、もっともカバーバージョンが多いと言われている曲です。ジョーン・バエズ、ニール・ダイヤモンド、フェアポート・コンヴェンション、ロバータ・フラックも歌っています。

コーエンをだまして、曲の権利を自分のものにした人、いま、どんな気持ちでいるでしょうか? もう亡くなっているかもしれませんが。

アルディの曲は、こちらのアルバムに入っています。

もっとフランソワーズ・アルディの曲を聞きたい方は、以下の記事もお読みください。

さよならを教えて~フランソワーズ・アルディ(歌と訳詞)

もう森へなんか行かない(フランソワーズ・アルディ):歌と訳詞。

『男の子女の子』~フランソワーズ・アルディ:歌と訳詞 アルディのプロフィールも書いています。

ほかにも、数曲あるので、検索窓から探してください。

*****

レナード・コーエンといえば、禅の修行をしていたことも有名ですね。若いときから、仏教に強い関心をもち、1990年代には5年ほど、俗世間から離れて、LAの禅センターで修行していました。

そのころから、彼のマネージャーであり、親しい友人で、財産を管理していた女性が、彼のお金を盗みはじめました。そのことにコーエンは9年ぐらい気づいてなかったようです。のちに、コーエンはこの女性を訴えて、裁判になりました。

コーエンは、晩年もレコーディングやツアーをし、活躍していましたが、このとき、とられたお金をしっかり取り返すことができなかったのかもしれません。

Suzanneの著作権を盗んだ人も、友達だったみたいだし、コーエンは、世俗的なことには興味がなさすぎて、だまされてしまったのかもしれませんね。






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