今日、ご紹介するフランス語のことわざはこちらです。
Partir, c’est mourir un peu.
去りゆくことは死にゆくことにも似たり
このことわざは、プチ・ロワイヤル仏和辞典では
「去りゆくことは死にゆくことにも似たり」
という訳になっています。
2つの解釈が考えられます。
1.誰かが去ったあとに残された人の視点
これは日本語のことわざの「去るものは日々に疎し」と似た解釈になります。
去っていった人は、忘れ去られて、去られた人にとっては死んだも同然という意味ですね。
2.去っていく人自身の視点
去るということは、自分が少し死ぬこと。
なぜ少し死ぬのかというと、別れがつらいからです。
自分の考えや気持ちが変わったり、外的状況が変わったとき人は立ち去ります。
自発的であろうとなかろうと、去る時、人は自分自身で何らかの理由づけをします。あるいは、あとになって「あの時はそうするしかなかった」というような思いをいだきます。
その時、過去の自分が少し死ぬのです。変化するともいえますが進化というイメージはありません。「死んだ」あるいは「失くした」というニュアンスです。
ここにあるのは、ずっとあとになって、去ったときのことを思い返すと、悲しいような、あきらめのような気持ちになる別れです。
エドモン・アロクールの詩
このことわざはもともと詩の一節です。
エドモン・アロクール (Edmond Haraucourt)(1856-1941)という詩人が1890年に作りました。
詩の一番最初の4行を引用し、和訳をつけてみます。
Rondel de l’adieu
さよならの詩
Partir, c’est mourir un peu,
C’est mourir à ce qu’on aime :
On laisse un peu de soi-même
En toute heure et dans tout lieu.
去ること、それは少し死ぬこと
それは愛するものへの死
人は自分自身を少し置き去りにする
いつの時でも、どんな場所でも
rondelはロンデルという詩の形式です。3連14行2脚韻とジーニアス英和辞典にありました。
よくわかる!フランス語の解説
★単語の意味
partir 立ち去ること
c’est = ce est のエリジオン ~である
mourir 死ぬこと
un peu 少し
★直訳
「立ち去ること、それは少し死ぬことである。」
★文法
1.不定法であらわす「~すること」
partir, mourir はともに動詞の不定法(辞書にのっている形)で「~すること」という意味になります。
英語ならば動名詞になるところですが、フランス語は不定法だけで表します。
たとえば
英語の Seeing is believing.(見ることは信じること)は
フランス語では Voir, c’est croire. (見ること、それは信じること)
となります。
2.文の最初に説明したいものを持ってきてから、c’est … と説明を加える形(文頭遊離構文という難しげな名前がありますが、この名前は覚える必要ありません)
ほかの例
D’urban, c’est l’elegance de l’homme moderne.
ダーバン、それは現代の男のエレガンスだ。
アラン・ドロンのCMより。参考⇒アラン・ドロンのダーバンのCMでフランス語を学ぶ。
こちらも参照してください⇒「虎と小鳥のフランス日記」第26話 バルザックの家 その2
「長いお別れ」にも出てきます
じつはこのことわざは英語の
To say good bye is to die a little. (Raymond Chandler)
の元ネタだと言われています。
レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」という小説の最後のほうで主人公のフィリップ・マーロウがこう言います。
The French have a phrase for it. The bastards have a phrase for everything and they are always right. To say good bye is to die a little.
あまり文学的でないpenの訳:
フランス人はこういう時の言い方を知っている。
やつらは、どんな場合の言い方も知っていて、それはいつも正しいってわけさ。さよならを言うことは少し死ぬことなんだ。
いかがでしたか?
会うは別れの始めといいますが、人生は出会いと別れの連続です。私達は、どんなものともいつかは必ず別れなければなりません。
出会った幸運に感謝して、別れるときに悔いのないように過ごすことができるよう、心がけたいですね。
レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」という小説の最後のほうで主人公のフィリップ・マーロウがこのことわざを引用しているとはしりませんでした。いい勉強になりました。
すこし関連したことわざに、Un peu d’absence fait grand bien.
短い不在は大きな幸福をつくる、があり、Pas de nouvelles, bonnes nouvelles ですが、あまり長い不在だと、Loin des yeux, loin du Coeur。去るものは日々に疎し となりますね。
樋沼さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Un peu d’absence fait grand bien. は 英語のAbsence makes the heart grow fonder.ですね。
Pas de nouvelles, bonnes nouvelles は便りのないのはよい便り ですね。特にUn peu d’absence fait grand bien.が気に入ったので、また記事にするかもしれません。
いつもありがとうございます。
penさんのブログ、印象深いものがたくさんありますが、これは私にとって、いちばんかも。かみしめて読みました。なんでかな?自分でもわかりませんが。。
marukoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。たぶん、さよならだけが人生だからではないでしょうか?
みんな、いつかはこの世を去るわけですし。
はじめまして。私もこのことわざを同じ辞書で見つけました。意味がよくわからず、ググったところ面白い記事を見つけました。ありがとうございました。
通りすがりの人さんへ
こんにちは。penです。
コメントありがとうございます。
記事が参考になってよかったです。
よかったら、また遊びに来てください。
pen