フランスの作家、マルセル・パニョルが若いときに書いた、Œufs de Pâques (イースターエッグ)という詩を紹介します。
1910年に書かれた詩です。彼は1895年生まれなので、15歳のときの作品です。
デパートに置かれたイースターエッグとそれを見ている子どもたちの様子を描いています。
Œufs de Pâques : Marcel Pagnol
Voici venir Pâques fleuries,
Et devant les confiseries
Les petits vagabonds s’arrêtent, envieux.
Ils lèchent leurs lèvres de rose
Tout en contemplant quelque chose
Qui met de la flamme à leurs yeux.
Leurs regards avides attaquent
Les magnifiques œufs de Pâques
Qui trônent, orgueilleux, dans les grands magasins,
Magnifiques, fermes et lisses,
Et que regardent en coulisse
Les poissons d’avril, leurs voisins.
Les uns sont blancs comme la neige.
Des copeaux soyeux les protègent.
Leurs flancs sont faits de sucre. Et l’on voit, à côté,
D’autres, montrant sur leurs flancs sombres
De chocolat brillant dans l’ombre,
De tout petits anges sculptés.
Les uns sont petits et graciles,
Il semble qu’il serait facile
D’en croquer plus d’un à la fois ;
Et d’autres, prenant bien leurs aises,
Unis, simples, pansus, obèses,
S’étalent comme des bourgeois.
Tous sont noués de faveurs roses.
On sent que mille bonnes choses
Logent dans leurs flancs spacieux
L’estomac et la poche vides,
Les pauvres petits, l’œil avide,
Semblent les savourer des yeux.
では訳してみます。各行ごとに、つまり頭から訳しています。私の訳は詩になっていないのですが、こんなことが書いてある、と参考程度にとどめてください。
イースターエッグ:マルセル・パニョル
花盛りのイースターがやってきた
お菓子の前に
ふらふらとこどもたちがやってきて、うらやましそうに立ち止まる
こどもたちはピンク色のくちびるをなめる
何かを考えながら
目を輝かせている
子どもたちのむさぼるような目は
美しいイースターエッグを見ている
卵はデパートの中で、堂々としている
美しくて、しっかりして、つやつやだ
卵たちはこっそりと見ている
隣人の4月の魚を
雪のように白いのもある
絹のようなおがくずに守られている
横側は砂糖でできている。その横には
黒いのがある
チョコレートでできていて、影の中でつやつやしている
小さな天使の彫刻がついている
小さくてきゃしゃな卵がある
簡単に
一口で砕けそうだ
行儀の悪い卵もある
無地で飾り気がなく大きくふくらんでいる
ブルジョワのように並んでいる
みんなピンクのリボンを結ばれ特別待遇。
たくさんいいものがありそうだ
ゆったりとした卵の内側には
おなかがペコペコだし、ポケットはからっぽ
かわいそうな子どもたちは、食い入るような目で
卵を食べ尽くしてしまいそうだ
単語メモ
confiserie 砂糖菓子、砂糖菓子屋
vagabond 浮浪者
lécher なめる
regard avide むさぼるような目つき
trôner 上座に座る、のさばる、尊大ぶる
orgueilleux 傲慢な、堂々とした
ferme (中身が詰まって)かたい、引き締まった、力強い
lisse なめらかな、すべすべした
en coulisse ひそかに、秘密裏に
copeau おがくず、こっぱ
soyeux 絹のような、柔らかで光沢のある
flanc 側面
couleur sombre 暗色
gracile かぼそい、きゃしゃな、繊細な
prendre ses aises くつろいだ[行儀の悪い]格好をする
pansus 腹の出た、太鼓腹の、(壺などが)ふくらみの大きい
obèse 太りすぎの
faveur 特別のはからい
loger 置く
・・・初めて見た単語がたくさんありました。
マルセル・パニョルのプロフィール
マルセル・パニョル(1985-1974)は20世紀のフランスを代表する作家、劇作家、映画作家です。マルセイユ郊外のオーバーニュの生まれ。特に、子どもの頃の回想を題材にした戯曲、マルセイユ3部作が有名です。
この戯曲はそれぞれ、Marius(マリウス 1929)、Fanny(ファニー 1931)、César(セザール 1946)というタイトルです。
後にイブ・ロベール監督が、ファニーとセザールを元にLa Gloire de mon père(プロヴァンス物語 マルセルの夏)、 Le Château de ma mère (プロヴァンス物語 マルセルのお城)という映画を作り、日本でも話題になりました。
映画「マルセルの夏」の予告編を紹介しています⇒『プロヴァンス物語 マルセルの夏』~予告編のフランス語(1) この記事でもマルセル・パニョルについて書いています。
パニョルは、ずいぶん小さいときに文字が読めるようになりましたが、その神童ぶりにお母さんはびっくりして、6歳になるまで本を読ませなかった、という逸話があります。
10歳でリセの奨学金試験を受けて、優秀な成績で合格。15歳で最初の戯曲を書き、父親のあとをついで、リセの先生になりました。
この詩はその頃書かれたわけです。すでに高校の先生になるかならないかだったので、子どもたちのことを先生の目で見ているかもしれません。
はじめて戯曲が上演されたのはその後15年ぐらいたった1924年です。
マルセル・パニョルは1931年から1967年のおよそ35年の間に、35本も映画を作っています。
彼は英語とラテン語も得意で、シェークスピアとウェルギリウス(古代ローマの詩人)を敬愛していたそうで、シェークスピアの「ハムレット」と「真夏の夜の夢」、ウェルギリウスの詩集をフランス語に翻訳しています。
他に小説や随筆も書いています。
多彩な才能のあった人ですね。
詳しくはマルセル・パニョルのサイト(フランス語)をごらんください⇒Marcel Pagnol Films, histoire – livres et DVD de Marcel Pagnol
Œufs de Pâquesの詩も、このサイトにあったものを引用しました。
イースター(復活祭)について
イースターはキリストの復活を祝うキリスト教の祝日で、春分のあとの最初の満月の次の日です。
2017年は4月16日がイースター・サンデーです。
イースターエッグはイースターを祝うときに用意されるカラフルな卵のこと。また、卵の形をしたチョコレートも販売されます。
chocolatier (チョコレート専門店)ではこんなふうに卵の形をしたチョコレートを作っています(2分16秒)
もっとイースターについて知りたい方は過去記事を参照してください。
マルセル・パニョルは1914年(18歳ごろ)に、友人数人と文芸雑誌を発行していたことがあり、そこで自分の詩を発表しました。「自分も友人も詩人ではなかった」と述懐しています。詩を書く才能は、散文を書く才能とは全く違うものなのでしょう。
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