フランソワーズ・アルディが1967年に発売したアルバムと同名のシングル曲、もう森へなんか行かない(Ma jeunesse fout le camp)を紹介します。
日本ではドラマの主題歌に使われたので、フレンチ・ポップスとしては有名な曲ですね。
原題の、Ma jeunesse fout le camp は、「私の青春は去っていく」という意味です。fout は foutre という動詞の活用形で、foutre le camp はイディオムで、立ち去る、逃げる、という意味です。
もう森へなんか行かない
物悲しい歌ですね。
それでは訳詞に挑戦!
私の青春は行ってしまう(Ma jeunesse fout le camp)
私の青春は行ってしまう
詩の中を
一つの韻からもうひとつの韻へと
腕をぶらぶらさせながら行ってしまう
私の青春は行ってしまう
枯れた泉のもとを
柳の木こりのもとを
木こりは、私の青春を刈り入れる
もう私たちは森へ行かない
詩人の歌
安っぽいリフレイン
へたくそな詩
それは、かつて、夢を見ながら歌ったもの
お祭りで会った少年たちの夢を
名前すら忘れてしまったけれど
名前すら忘れてしまったけれど
もう私たちは森へ行かない
すみれを探しになんか
きょうは雨が降っているから
私たちの足音は聞こえない
それでも子どもたちの
頭の中は歌でいっぱい
でも、私はどれ一つ知らない
でも、私はどれ一つしらない
私の青春は行ってしまう
ギターの音色のうえを
それは私の中から出ていく
静かに、ゆっくりと
それは旅立っていく
私が若かったころの花を
髪につけたまま
もう私たちは森へ行かない
秋になる
私は春を待つわ
退屈の花びらをむしりながら
もう春は戻ってこない
もし私の心が震えたとしたら
それは夜になったから
それは夜になったから
もう私たちは森へ行かない
もう一緒に行かない
私の青春は行ってしまう
あなたの足取りとともに
あなたが知っていてさえくれたら
どんなに青春があなたに似ているかを
でも、あなたは知らない
でも、あなたは知らない
単語メモ
au long de ~に沿って、~の間中
ballant (腕、足などが)ゆれている、だらりとした
coupeur 伐採夫
osier (あみかご用などの)柳の細枝;あみかご用などに栽培される数種の柳の総称
moissonner 収穫する、刈り入れをする
sous (複数形で)お金
de deux sous 安っぽい、たいして値打ちのない
mirliton 俗謡のリフレイン
vers de mirliton へたな詩句
☆mirliton は、管の底に羊皮紙や油紙を貼って、声を共鳴させる小さな笛のことです。リームをつめたスティックタイプのパイ菓子でもあります。
effacer ~を消す、消し去る
à pas lents ゆっくりとした足取りで
rompu < rompre ~を断つ、解消する
amarre (船、飛行機などの)係留用ロープ、もやい(船を桟橋につないでいる網)
rompre les amarres もやい網を切る、絆/束縛を断ち切る
effeuiller 葉を取る/摘む;花びらをむしる
ennui 退屈、倦怠
単語はちょっとむずかしいですが、文法的にはそんなに難しくありません。mes vingt ans(私の二十歳)は「青春」と訳しました。
恋の終わりとともに、青春も去っていく、それもゆっくりと、といった内容の歌です。
もう森へなんか行かない:ギイ・ボンタンペリ
この曲を作ったのは、ギイ・ボンタンペリ(Guy Bontempelli 1940-2014)というフランスのシンガー・ソングライターです。
彼のバージョンはこちら。
ボンタンペリは語るように歌っているので、こちらのほうがフランス語は聞き取りやすいと思います。
祭りで会った少年たち(garçons)が filles(少女たち)になっています。また、Chercher la violette の chercher は attendre になっています。
もう森へ行かない(童謡)
フランスには、この曲の歌詞に何度も出てくる Nous n’irons plus au bois(もう私たちは森へ行かない)というタイトルの童謡があります。
フランスの子供は誰でも知っている歌なので、ギイがこの曲を作ったとき、童謡のことも頭にあったと思われます。
こちらはいたってのどかな歌です。
童謡なのでいろいろな歌詞がありますが、動画の歌詞を訳しておきます(字幕が少し間違っている箇所があります)。
Nous n’irons plus au bois,
Les lauriers sont coupés.
La belle que voilà,
la laiss’rons-nous danser?
私たちはもう森へ行かない
月桂樹が切られてしまった
美しい娘がやってきた
彼女にダンスをさせる?
☆Entrez dans la danse,
Voyez comme on danse,
Sautez, dansez,
embrassez qui vous voudrez.
ダンスに入って
私たちが踊るのを見て
跳んで、踊って
キスをしたい人にキスをして☆
La belle que voilà
la laiss’rons-nous danser ?
Mais les lauriers du bois,
les laiss’rons-nous faner ?
Mais les lauriers du bois,
les laiss”rons-nous faner ?
Non, chacune à son tour
ira les ramasser.
美しい娘がやってきた
彼女にダンスをさせる?
でも、森の月桂樹は
しおれたままにするの?
でも、森の月桂樹は
しおれたままにするの?
いいえ、娘たちが順番に
拾い集めます
☆~☆ 繰り返し
Non, chacune à son tour
ira les ramasser.
Si la cigale y dort
ne faut pa la blesser,
Si la cigale y dort
ne faut pa la blesser,
Le chant du rossignol
la viendra réveiller.
いいえ、娘たちが順番に
拾い集めます
そこでセミが寝ていたら
傷つけてはいけません
そこでセミが寝ていたら
傷つけてはいけません
ナイチンゲールの鳴き声が
セミを起こすでしょう
☆~☆ 繰り返し
Le chant du rossignol
la viendra réveiller.
Et aussi la fauvette
avec son doux gosier
Et aussi la fauvette
avec son doux gosier
Et Jeanne la bergère
avec son blanc panier.
ナイチンゲールの鳴き声が
セミを起こすでしょう
ハッコウチョウも
やさしく鳴いて
ハッコウチョウも
やさしく鳴いて
羊飼いのジャンヌも
白いかごを持って
☆~☆ 繰り返し
Et Jeanne la bergère
avec son blanc panier
Allant cueillir la fraise
et la fleur d’églantier,
Allant cueillir la fraise
et la fleur d’églantier,
Cigale, ma cigale,
allons il faut chanter
Cigale, ma cigale,
allons il faut chanter
Car les lauriers du bois
sont déjà repoussées
羊飼いのジャンヌも
白いかごを持って
いちごと
野ばらの花をつみます
いちごと
野ばらの花をつみます
セミ、私のセミ
歌を歌わなければ
だって、森の月桂樹は
もうまた生えたのだから
フランソワーズ・アルディのほかの曲
過去に訳した曲をいくつか紹介しておきます。
『男の子女の子』~フランソワーズ・アルディ:歌と訳詞 デビュー曲です。
フランソワーズ・アルディ:1日の最初の幸せ(Le premier bonheur du jour)~歌と訳詞
フランソワーズ・アルディ、Mon amie la rose(バラのほほえみ)の訳詩
フランスワーズ・アルディの Soleil (お日さま)の訳詞
オール・オーヴァー・ザ・ワールド:フランソワーズ・アルディ(訳詞)
「もう森へなんか行かない」が入っているアルバム
*****
この曲が使われていたのは「沿線地図」という山田太一脚本のドラマ(1979)とのこと。私は見たことありません。
それにしても、最後に紹介した童謡の歌詞が思ったより長く、訳している途中、「訳し始めなければよかった」と思いました。
森は、子供や若者がいくところなんですね。
PENさんこんにちは。この曲は中学生の頃好きでレコードを散々聴きました。今回オリジナルバージョンも聴くことができてうれしいです。それにしても「もう森へなんか行かない」って、何だか意味深で大人っぽいフレーズだと思っていたら、童謡の歌詞だったんですね。いろいろと勉強になります。ありがとうございます。
ソランジュさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私もこの曲好きです。雰囲気があっていい歌ですね。
この曲が日本で人気がるのは、「もう森へなんか行かない」という素敵なタイトルのせいもあるでしょう。
pen
はじめまして。マリルーと申します(大好きなポルナレフのGoodbye Marylouから・ ‘90ポルナレフのカーマスートラも好きでした)。
先ほど「vieux」を検索していて、偶然拝見いたしました。素敵なブログですね!
私より、4学年年下でいらっしゃるので、OL時代のお話なども興味深く拝見いたしました(ひと時代違う感じもしますが・笑)。
ところで、アルディの「もう森へなんか行かない」歌詞を拝見しておりましたら「Taci, taci」で始まるので、あら? そんな歌詞だったかしら? と思い検索しましたら、ルーマニアの歌手LoraさんのArde という曲でした。
では、またコメントさせていただきますね〜。
マリルーさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
歌詞のリンク、貼り間違えていましたね。
う~ん、どうしてこんなミスをして、しかも、それに気づいていなかったのか謎です。
いま、Ma jeunesse fout le campのリンクを取り直しました。
大変失礼いたしました。
ご指摘ありがとうございます。
pen
懐かしい歌声とフランス語の響き。中学生の僕は、姉の「英和辞典」でMichel Sardou のLa maladie d’amour を解読しようとしていました。結果、大学はフランス文学専攻に。
てるさん
はじめまして。penです。
コメントありがとうございます。
てるさんは、音楽とフランス文学がお好きなのですね。
思春期に聞いた音楽は、長く心の中に残りますね。
コメント、ありがとうございます。