映画「シャルブールの雨傘」の劇中歌(イコール全せりふ)を順番に訳しています。
今回は、Dans la rue(通りで)と、 Au dancing(ダンスホールで)の2曲です。
どちらもとても短い曲です。
Dans la rue
この動画には前回紹介した、Chez Tante Elise が先に入っていて、Dans la rue は 2分30秒くらいから始まります。とても短い曲で、歌詞は6行です。
ギイとジュヌヴィエーヴが劇場に行くために道で落ち合うシーンです。
3分5秒。
■歌詞
J’ai eu un mal fou.
A quoi faire ?
A persuader maman. Je voyais l’heure passer et la couturière qui n’arrivait pas. Regarde. Attention, elle est encore pleine d’épingles.
■和訳
すっごく苦労したわ。
何のために?
母を説得するのに、時間はたつのに、仕立て屋さんが来なくって。見て。気をつけて、まだ針がいっぱいついているわ。
Au dancing
最初の16秒は劇場で2人がオペラを見ているシーンです。
そろそろオペラも終わろうかという頃、隣に座っていたギイがジュヌヴィエーヴを、肩から腕にかけて抱こうとしたら、ドレスについていた針で指をさしてしまい、2人して笑います。
オペラが終わったあと、2人はダンスホールへ踊りに行き、タンゴを踊りながら、セリフを言います(歌います)。
踊り終わったあと、リフレッシュコーナーで、飲み物を注文して、出てくるのを待っていたら、マンボが始まったので、また踊りに行きます。
2分14秒。
■歌詞
Tu sais, je crois qu’elle se doute de quelque chose.
Qui ça ?
Maman, quand je lui ai dit que j’allais au théâtre avec Cécile, elle m’a regardée d’une drôle de façon.
Une façon comment ?
Comme ça. Elle sait très bien que Cécile a horreur du théâtre. Et comme je mens très mal…
C’est toi qui le dis.
Si, si, je t’assure, je suis très maladroite. J’ai bafouillé, j’ai rougi, j’ai tout de suite parlé d’autre chose.
Un machin pressé.
Un machin ?
Au citron.
La même chose.
Tu m’aimes ? Oh, un mambo, viens.
J’aurais dû changer de chaussures.
■和訳
ねえ、あの人、何か疑ってるわ。
誰が?
ママよ。セシルと劇場に行くと言ったら、変なふうに私を見たもの。
どんなふうに?
こんなふうによ。ママは、セシルが劇場を大嫌いなことよく知っているの。それに、私、嘘をつくのがすごく下手だし。
そう言ってるのは君だけだよ。
本当よ。そうなんだから。私、すごく不器用で、どもっちゃうし、赤くなるし、すぐに話題を変えたんだけど。
なにかスカッシュをお願い。
スカッシュ?
レモンを。
僕も同じもの。
私のこと、愛してる? あ、マンボよ。行きましょ。靴を履き替えとけばよかった。
単語メモと補足
un dancing ダンスホール、ナイトクラブ
bafouiller 口ごもる、もごもご言う
un machine (話)(名前を知らないか忘れてしまった)なんとかいう物、Un machin pressé は、直訳すると「絞った何か」。
si は、 その前に出てきた否定を打ち消すものです。
たとえば、Tu n’iras pas. — Si ! きみは行かないんだね。- いや、行くよ。
「私は嘘をつくのが下手だ」というジュヌヴィエーヴの言葉を、ギイが、「そう言ってるのはきみだけだ(君は嘘をつくのは下手ではない)」と否定したので、ジュヌヴィエーヴが、「本当よ、本当に下手なのよ」とsi で受けています。
J’aurais dû changer de chaussures. (靴を替えておくべきだった)。
これは、よく出てくる条件法過去の文章で、後悔の気持ちを表しています。
例文:J’aurai dû travailler plus. もっと勉強しておけばよかった。
ジュヌヴィエーヴは、ヒールのある靴をはいていたので、踊りにくかったのでしょう。
☆この続きはこちら⇒桟橋で(映画「シェルブールの雨傘」#5):歌と訳詞。
■これまで書いた「シェルブールの雨傘」の記事。
修理工場のシーン(映画「シェルブールの雨傘」#1):歌と訳詞。
伯母エリーズの家で(映画「シェルブールの雨傘」#3):歌と訳詞。
****
今回のシーンから、ギイとジュヌヴィエーヴのアツアツぶりと、ジュヌヴィエーヴが、ギイと付き合っていることを母親に隠していることがわかります。
今訳しているのは第一部で、このパートは1957年の11月という設定です。
オペラに出かけるのにドレスを仕立ててもらうところに、時代が出ていますね。本当にドレスに針がいっぱいついていたら、こんなふうにはタンゴは踊れませんよね。
それでは、この続きをお楽しみに。
この記事へのコメントはありません。