ここのところ、ハロウィン関連の記事を書いていますが、この歌でしめたいと思います。
その名も La chauve-souris こうもり
トマ・フェルセンの「こうもり」
こうもりは、哺乳類なのに、鳥みたいに飛ぶ夜行性の動物。昼間は木や岩にぶらさがっています。
日本語の「こうもり」は蚊をよく取って食べるので 「蚊屠(かほふ)り」と呼ばれたのが語源。
フランス語の直訳は
chauve 禿げた(毛のない)
souris ネズミ
コウモリを初めて見た人は、「ネズミみたいだけど、毛がない」と思ったのでしょうか? でも、毛は、はえてますけどね。少なくともボディには。翼にはありませんが。
「こうもり」という曲を作って歌っているのはトマ・フェルセン。
以前、歌と訳詞:Juillet(7月)~トマ・フェルセンでご紹介したことがありますが、全くアクセスがないですね。
日本ではあまり知られていないようですが、とても味わいのあるシンガーです。
彼は詩人で、動物や植物の名前を用いた独特の比喩を使って、ストーリーを作り上げたり、人々の夢や挫折を歌ったりします。
言葉遊びも多いので、歌詞を訳すのは難しいのです、が、その分、ボキャブラリーは絶対増えます。
本日訳す「こうもり」はフランスの小学生が学校で習うようなので彼の歌の中では簡単なほうではないでしょうか?
意味がとおればいいのですが。
ではまず聞いて下さい。歌の内容がアニメで描写されています。
4分8秒
長いのできょうは1分35秒のところまで。
La chauve-souris こうもり 訳詞
Une chauve-souris
Aimait un parapluie
Un grand parapluie noir
Découpé dans la nuit
Par goût de désespoir
Car tout glissait sur lui
Une chauve-souris
Aimait un parapluie
Aimait un parapluie
あるこうもりは
傘を愛していた
大きな黒い傘は
夜の闇を切り取ったもの
絶望を味わいたくて
というのも、こうもりは何にも気にならないから
あるこうもりは
傘を愛していた
傘を愛していた
こうもりは超音波を使って進んだ*
眠りは遠ざかった
こうもりは何か飲みたかった
井戸の奥に飛び込んだ
あるこうもりは
傘を愛していた
大きな黒い傘は
夜の闇を切り取ったもの
夜の闇を切り取ったもの
そのコウモリには
決して心を動かされない
大きな黒い傘は
カバーから出て
コウモリの翼の下で*
美しい夜になろうとがんばった
それは、サン・マルセル大通りで
恵みの雨を受けた
そのあと、大きな傘は
旅を始めた
黒い美しいドレスをまとい
長話のあと
小遣い稼ぎするために
剣を飲む芸人は
その傘をのどに入れた
※歌詞はこちらにあります⇒Paroles La chauve-souris – Thomas Fersen – Musique – Ados.fr
単語メモ
glissait <glisser glisser sur qc ~を気に留めない、深入りしない。
glisser は「すべる」という意味なので、「かすめる、上滑りする、軽く触れる」というニュアンス。
sommeil 眠り
fuie < fuirの過去分詞 逃げる
s’émouvoir 心を動かされる、感動する
étui(専用の)陽気、箱、鞘(さや)、カバー、拳銃のホルスター
aile コウモリの飛膜
prendre soin de+inf. ~するように心がける、入念に~する
palabres 〈複数で〉長話、長談義
osier (口語)お金
avaleur de sabres (奇術で)剣を飲んで見せる芸人
gosier (医学用語)口峡(こうきょう)、中咽頭(ちゅういんとう)つまり「のど」です。
*radarはレーダーです。こうもりは目はあまり見えないそうですが、声帯から超音波を発して、その反響を聞きながら障害物との距離をはかり、鳥のように跳び回るのです。そんなことどうやって調べたのかは知りませんが。
*aile コウモリの飛膜
厳密に言うとコウモリが飛ぶ時に、はたはたさせているのは翼ではありません。
前足と指が発達していて、こことボディと後ろの足としっぽの間にうすい飛膜が張られていて、これが翼として機能しています。
文法ワンポイント~前置詞 par
動機を表すpar
Par goût de désespoir
このparはいったいどんな用法なのか迷ったのですが、その前に「夜から切り取られた傘」とあるので、「こうもりが、絶望を味わいたくて、切り取った。」つまり、動機を表すparと判断しました。
プチ・ロワイヤル仏和辞典に、この用法のparは「無冠詞の抽象名詞を伴うことが多い」とあったのも、こう思った理由の一つです。
このparの例文は
Je l’ai fait par amitié pour toi.
私は君への友情からそうしたんだよ。
Par pitié, ne le dites pas à mon père.
お願いだからそれを父に言わないで下さい。
よく出てくるparの用法
Il est entré par la porter principale.
彼は正面の入り口から入った。
On va envoyer un colis par la poste.
その荷物を郵便で送ります。
Il a été renversé par un camion.
彼はトラックにはねられた。
Il ne mange que deux fois par jour.
日に2度しか食事をしない。
もし仏検で動機のparが出るとすれば、多くの受験生が答えられない問題ではないかと思います。
この続きはこちらから⇒歌と訳詞:こうもり~トマ・フェルセン 後編
日本語で黒い大きな傘を「こうもり傘」と言いますが、フランスでもそうなのでしょうか?
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