ジャック・プレヴェール(1900-1977)のLe Cancre 『劣等生』という詩をご紹介します。プレヴェールは20世紀のフランスの有名な詩人、映画作家、童話作家。
劣等生の和訳
cancre は口語で劣等生。語源はラテン語のcancer でこれはカニのこと。カニが横歩きでのろのろ動く、その様子から派生した言葉です。
それでは詩の朗読をお聞きください。詩の内容にあわせた動画になっています。
☆ほかの朗読
LE CANCRE – Vive Voix | Wheaton College 男性
Le Cancre
Il dit non avec la tête
Mais il dit oui avec le cœur
Il dit oui à ce qu’il aime
Il dit non au professeur
Il est debout
On le questionne
Et tous les problèmes sont posés
Soudain le fou rire le prend
Et il efface tout
Les chiffres et les mots
Les dates et les noms
Les phrases et les pièges
Et malgré les menaces du maître
Sous les huées des enfants prodiges
Avec des craies de toutes les couleurs
Sur le tableau noir du malheur
Il dessine le visage du bonheur.– Jacques PRÉVERT (Paroles 1945)
では、和訳してみます。
単語は簡単なのですが、詩のように訳すのは難しかったです。
劣等生
彼は頭では「いいえ」と言う
でも心では「はい」と言う
好きなものには「はい」と言う
先生には「いいえ」と言う
立っている
質問を受ける
質問が全部終わる
突然大笑いを始める
そして、全部消す
数字も、言葉も
日付も、名前も
文章も、ひっかけ問題も
先生から脅かされても
できのいい子たちのやじの中で
ありったけの色のチョークで
不幸の黒板の上に
幸せな顔を描く。
単語・表現メモ
piège 罠;(試験などの)落とし穴、ひっかけ
question(-)piège 引っ掛けの問題
huée (複数形で)やじ、罵声
craie チョーク
Soudain le fou rire le prend
突然きちがいじみた笑いが彼をとらえる⇒彼は突然笑いだす。
単語も構文もシンプルです。
この詩の解釈は読み手にまかされています。
第二次大戦の直後に発表されたことを考えると、権威や体制への批判、自由を求める気持ちが入っているかもしれません。それぞれが、自分の黒板に幸せの顔を描いて前に進むべき時期だったのかもしれません。
プレヴェールは貧しい家の生まれで、小学校しか出ていないそうです。15歳からパリの商店や百貨店で働いていました。
Le Cancre 別の動画
最初に15秒ほどCMが入っています。
『劣等生』は歌にもなっています。
作曲はジョゼフ・コズマ(Joseph Kosma)です。明るい感じですね。
ジャック・プレヴェールの作品は、以前『朝食』という詩をとりあげています⇒ジャック・プレヴェールの詩『朝食』は複合過去の学習に最適
『劣等生』も『朝食』と同じ、1945年に発売された Paroles という詩集に入っています。
☆関連記事もどうぞ
Le Jardin(ジャック・プレヴェール)という詩を読んでみた
黒板で、問題をとくのって、恥ずかしいものです。問題をといたあと、間違いを先生に直されるのならともかく、他の生徒に直されるのってけっこう屈辱ですね。
私は中学生のとき、数学の時間に、共通部分と和集合がどこなのか、◯が2つ重なった上を、チョークで色をぬる問題で、思いっきり間違えたことを今でも覚えています。
そのときの先生の名前まで覚えています。
あまり人前で問題を解きたくないものです。
それでは次回の詩の記事をお楽しみに。
☆トップの写真はFlickerよりお借りしました。ありがとうございます。
Dunceby garybirnie.co.uk
この記事へのコメントはありません。