フランス映画の予告編のスクリプトでフランス語を学習するシリーズ。今週から Les Héritiers という映画です。héritier は「相続人、後継者」という意味。記事のタイトルは文字化け防止のためアクサンを抜いてます。
タイトルだけみると、「ミステリー映画かしら」と思うのですが、学園ものです。
制作は2014年。監督はMarie-Castille Mention-Schaarという女性です。
Les Héritiers スクリプトと和訳
前回チェックした«Qu’est-ce qu’on a fait au Bon Dieu ?»はさまざまな人種が混ざっているフランスならではの映画でしたが、今回の映画も、「移民が多いフランス社会」という背景は共通です。
しかし、そのトーンはもっとシリアスです。
まず予告編をごらんください。
きょうは50秒ぐらいまで。
La croix, jeune fille, sous la veste. Merci.
Foulard, s’il vous plaît. Merci.
Bonjour
La seconde 1, c’est une catastrophe. Il y a 3 rapports disciplinaires à viser en urgence.
Je m’en fous, de tes règles, moi.
Je m’appelle Mme Guéguen.
Ça suffit!
J’ai réfléchi à un projet qu’on pourrait faire tous ensemble. Un concours.
C’est le Concours National de la Résistance et de la Déportation.Ça a l’air d’être un truc d’intello, ça.
Vous savez très bien qu’on va se planter ? Pourquoi vous voulez qu’on se tape la honte ? Pourquoi vous faites ça?
C’est bizarre, parce que moi, j’ai beaucoup plus confiance en vous que vous n’avez confiance en vous-mêmes.
十字架はセーターの下にしまって。ありがとう。
ベールは取ってね。ありがとう。
おはよう。
2-1は崩壊してるわよ。早急に手を打たなければならない懲戒の報告書が3つ出てるわ。
規則なんて知ったこっちゃないわ。
私の名前はゲゲンです。
いいかげんにしなさい!
クラス全体でやれるプロジェクトについて考えてみました。コンクールです。レジスタンスと強制収容所の監禁に関するコンクール。
優等生向きに聞こえるな。
しくじることよくわかってるのに。なぜわざわざ恥をかくようなことするんですか?どうしてそんなことを?
おかしいですね。だって、私はあなたたちならできると思っていますよ。あなたたちがそう思っている以上に。
スクリプトはこちらを参考にしました⇒Bande-annonce: Les héritiers
単語メモ
rapport 報告書
disciplinaire 規律上の
viser 狙う、対象とする
se foutre de qn/qc ~をばかにする、問題にしない、無視する
Je m’en fous complètement.
そんなの全然知ったことじゃないよ。
se planter (スラング)間違える、失敗する
se taper 飲む、食う;つらい仕事をやる
j’ai beaucoup plus confiance en vous que vous n’avez confiance en vous-mêmes.
直訳:あなたたちが、自分自身を信頼している以上に、私はあなたたちのことを信じている。
あなたたちだって、やればできるのに、ということ。
n’avez のn’ = ne は虚辞のneです。
詳しくは⇒TIPAの初アルバム紹介~「虎と小鳥のフランス日記」第145話 1つ目のキーフレーズの解説です。
今回のお話
予告編にd’après une histoire vraie と出てくるように、この映画は実話にもとづいています。
社会的に恵まれない階層の子どもたちが多く通う高校に勤めるゲゲン先生が今年受け持つクラスはなかば学級崩壊しています。
生徒たちは、家庭環境や周囲の差別的なまなざしのせいですっかり自信を失って、やさぐれています。
そんな子どもたちに立ち直ってほしいとゲゲン先生はクラスであるコンクールに参加することを決めます。
Concours National de la Résistance et de la Déportation は実在するコンクールで、直訳すると「レジスタンスと強制収容所監禁に関する国内コンクール」。
ナチの強制収容所に入れられた子どもやティーンエイジャーに関して調べる歴史のコンクールです。
ゲゲン先生は社会(地理や歴史)の先生なのです。
2008年に『パリ20区、僕たちのクラス』(Entre les murs 直訳:壁の内側)という映画がありましたが、テーマが似ています。
Entre les mursは邦題にあるようにパリ市内20区の学校が舞台でしたが、 Les Héritiersはヴァル=ド=マルヌ県というパリ郊外にある高校が舞台です。
パリの郊外には、こうした移民の子どもたちが通う学校がたくさんあります。フランスには、都市の郊外の特定の場所に貧しい移民が集中し、治安が悪いという社会問題があり、「郊外問題」と呼ばれています。
きょうのワンポイント:ライシテ
冒頭、先生が登校してくる女性徒に十字架のペンダントを見せないようにしなさい、とかイスラム教徒が使うベールを取るように言っています。
このシーンは、この高校は移民や異教徒が多いということを知らせるシーンですが、フランスのライシテについても知ることができます。
ライシテは政教分離の原則です。宗教と政治を切り離す原則で、公共の場所に宗教を持ち込むべきではないという考え方です。
詳しくは⇒ライシテって何でしょうか?|penのフランス語日記
後編はこちらから⇒ナチ占領時代の子どもたちのことを知り次第に団結する生徒たち~:Les Heritiersの予告編のフランス語 | フランス語
問題児の多いクラスに赴任した理想に燃える先生を描く映画やドラマは昔からあります。日本でも3年B組金八先生とかありますね。
ただ、金八先生のクラスの問題児のかかえている問題はたいしたことなかったと思います(でもないか?)。思春期の子どもならみんな遭遇するアイデンティティの問題などではなかったでしょうか?
フランスの場合、問題児たちの背負っている背景が重いです。そこに、やはりとっても重いナチの強制収容所という歴史をぶつける映画です。
移民であり差別を受けている生徒たちは、同じように人種差別を受けたユダヤ人の子どもたちの歴史をさぐることで何を学ぶのでしょうか?
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