身近にあるフランス語に光を当てるシリーズ。今回は、英語の歌なのに、歌詞にちょっぴりフランス語が入っている曲をご紹介します。
知っている人はよく知っていて今さらブログに書くのもはばかれる曲。
ザ・ビートルズの「ミッシェル」です。
Michelle by The Beatles
1965年発売のアルバム、ラバー・ソウル(Rubber Soul)に収録されている曲です。
ポール・マッカートニーが作って歌っています。
フランス語部分は以下です。
Michelle, ma belle
Sont les mots qui vont très bien ensemble
Très bien ensemble
訳は
ミシェル、僕の可愛い人
2つの言葉はすごくいい感じにひびきあうね。
ほんとにあうね。
2つの言葉とは、
Michelle と ma belle です。
両方ともMで始まるし、エルで終わっています。つまり、韻を踏んでいるので、よく合うわけです。
上の訳はちょっと意訳してますが、直訳すると
Michelle と ma belle という言葉は、とてもうまく合う、とてもうまく合う。
この曲の要は、このフランス語部分であり、まずこの部分を作ってから、英語の
Michelle, ma belle
These are words that go together well
My Michelle
部分を作ったと思われます。意味は全く同じです。
日本の若い女性が、自分の好きな男性の名字に自分の名前をつけて読み上げ、合う、合わない、なんて考えることがありますが、それと同じ感覚でしょうか。
単語の説明
Michelle ミシェル 女性の名前
ma belle 女性に対する親しみをこめた呼び方。「あなた、きみ」と訳せるでしょう。ここでは、恋しい人に呼びかけています。
belle は beau の女性形です。もともとは形容詞ですが、名詞としても使われます。
belleは 美女、美人、という意味です。
「眠れる森の美女」は La Belle au bois dormant といいます⇒眠れる森の美女・タイトルのフランス語第5回
「美女と野獣」のヒロインはBelleという名前です⇒「美女と野獣」(2014)予告編のフランス語
ma は 「私の」という意味の所有形容詞の女性形です。次に続く名詞が女性形のときに使われます。男性形のときは mon です。
所有形容詞とは? ⇒「まいにちフランス語」3:初級編L7-9~形容詞
sont は être(~である) の 3人称複数形の活用
les 複数形の名詞につく定冠詞、それらの
mot 言葉
qui 主語になる関係代名詞。詳しくは⇒「まいにちフランス語」39:L61 関係代名詞 qui と que
vont aller(行く) の 3人称複数形の活用
très ひじょうに 副詞で、次のbienを強調
bien うまく これも副詞で、次の ensemble を強調
ensemble 調和して、合致して
aller ensemble で 調和する、合う という意味です。
例文:Cette cravate et cette chemise jaune ne vont pas ensemble. このネクタイとその黄色いワイシャツは合いませんね。
Michelle という名前について
Michelle (ミシェル)は、日本人の感覚からすると、女性の名前ですが、男性の名前でもあります。その場合は、Michel とつづります。
旧約聖書に出てくるミカエル(Michael)という大天使の名前から派生した名前で、フランス語圏、英語圏でよく使われています。
男性:Michel 例:Polnareff ポルナレフ(歌手)
女性:Michelle 例:Pfeiffer ファイファー (女優)
フランス語の名前には、このようにベースが同じで語尾が女性形だと女性の名前となるものが多いです。
まあ、日本語でもそうですよね。
男性:一郎
女性:一美
男性:正雄、雅也
女性:正子、雅美
とか。
フランス語の名前で、男性、女性バージョンがある、きわめて一般的な名前の例をあげると、
男性:François フランソワ 例:トリュフォー監督、オランド元大統領
女性:Françoise フランソワーズ 例:アルディ(歌手)、サガン(作家)
男性:Jean ジャン 例:ギャバン(俳優)ルノアール(映画監督)
女性:Jeanne ジャンヌ 例:ダルク(オルレアンの少女)、モロー(女優)
基本的な目印は語尾のEです。名詞や形容詞と同じで、Eをつけると女性形になるものが多いのです。
ミシェルの場合は、スペルが変わっても発音は変わりません。
日本語の「薫」や「泉」のように男女両方に使える名前もあります。
たとえば、
Claude クロード
男性:Claude François フランソワ (歌手)
女性:Claude Jade ジャド(女優)
Camille カミーユ
男性:Camille Pissarro ピサロ(画家)
女性:Camille Claudel クローデル(彫刻家)
Michelle が生まれた背景
Michelle は、ビートルズの曲の中でフランス語が使われている唯一の曲です。
この曲は、ポールが10代のときに作ったとのこと。当時、リバプールでは、フランスの左岸派の文化(ボヘミアンな感じ)が流行っていました。
ポールが、芸術専攻の学生たち(あごひげをはやしていたり、ボーダーのTシャツを着ていた)の集まるパーティに出かけていったら、みんながフランス語の歌を歌っていました。
そこで、ポールもフランス語っぽい歌を作って歌い、みんなをわかしていたのです。
Michelle もそんな歌の中の1曲だったのですが、ジョンのすすめで、この曲をレコーディングすることになったとか。
フランス語部分は、アイヴァン・ヴォーン(Ivan Vaughan)の奥さんである、ジャン・ヴォーン(Jan Vaughan)が手伝いました。
ジャンはフランス語の先生だったそうです。
アイヴァン・ヴォーンは、ジョンとポールを引き合わせた人物として、ビートルズファンにはよく知られている人物です。
ポールは、ジャンに、「Michelleという名前が好きなんだけど、これに合う言葉って、何かない?」と聞き、Michelleのフランス語部分が生まれました。
ついでに、フランス語風の発音の手ほどきもうけたそうです。
Sont les mots qui vont très bien ensemble 部分は英語ネイティブには、 Sunday monkey won’t play piano song(日曜に、サルはピアノの曲は弾かない)と聞こえる、と言われています。
Michelle フランス語バージョン
Michelle は 1966年にケベックの Les Atomesというバンドがフランス語にしてレコーディングしています。
YouTubeに音源があったので紹介しますね。
う~ん、やっぱりビートルズのほうがずっといいですね。
歌詞の内容はオリジナルとほとんど同じです。
まあ、もともとオリジナルの歌詞もひじょうにシンプルで、単に、「ミッシェルとマ・ベルって、言葉的によく合うよね、僕、きみのことめちゃくちゃ愛してるんだ。この気持ち、どうかわかってね。わかってくれるまで、こう言い続けるからね」というものです。
身近にある簡単フランス語を読み解くシリーズの過去記事もどうぞ:
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川を上流から下流に向かって見て、右側を右岸、左側を左岸と呼びます。
左岸をフランス語で言うと、Rive gauche(リヴゴーシュ)です。イヴ・サン=ローランの香水に、「リヴ・ゴーシュ」というのがありますが、これは、彼のプレタポルテのブランド名から来ています。
サン=ローランは、はじめは金持ちむけにオートクチュール(注文服)を作って人気を博していました。
彼は、もっと大勢の人に自分のデザインした服を提供したいと思い、1966年に「Saint Laurent rive gauche」という名前のプレタポルテ(既製服)のブティックを開きました。
このブティックは、 パリの7区、rue de Tournon(トゥルノン通り)にあり、ここはセーヌ左岸です。この店は、有名デザイナーが手がける初の既製服の店でした。
当時はまだオートクチュールが主流だったのです。
ほかの有名デザイナーは、金持ちが集まるシャンゼリゼ通りにブティックを持っていましたが、あえてサン=ローランは、リブ・ゴーシュに店を開いたのです。先見の明がありますね。
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