1980年代~90年代のセシールのCMから、セシールがいつも用いていたフランス語の言葉(サウンドロゴ)を使って、フランス語を勉強してみましょう。
昔のセシールのCM
80年代のCM、3本まとめて入っています。
1992年のもの
1994年のもの(たぶん)いちばん音声がクリアです。
いつのCMなのか記載がありませんが、CMにホームページのURLが出てくるので、、インターネット販売が始まった以降のもののはずです。
(株)ディノス・セシールの歴史を紹介するページを見たら(2023/08/06現在、ページはなくなっています)
1994年にパソコン通信による通販開始とあります。また、このサウンドロゴは、1983年5月~1994年9月の約11年間使っていたそうなので(近年、一時的に入れたCMも作られましたが)1994年のCMだと判断しました。
フランス語の意味
CMで出てくるフランス語は、画面にも出ていますが、
Il offre sa confiance et son amour.
それは(セシールは)信頼と愛を提供する(お届けする)
となります。
何の脈絡もなく突然出てくるので、Il offre のところは聞き取りにくく、confiance 以降しか頭に残らないかもしれません。
無理やりカタカナ書きをすると、イロッフフ サコンフィアンス エ ソナムーフ ですかね。
単語の意味:
il それは(人称代名詞)
offre 動詞 offrir の3人称単数の活用形、意味は「与える、提供する」
sa / son それの、その(所有形容詞)
confiance 信頼(女性名詞)
et ~と、そして (接続詞)
amour 愛 (男性名詞)
きょうのプチ文法:所有形容詞
文法ポイントとして、所有形容詞をチェックしてみましょう。
所有形容詞は、私の、あなたの、彼の、という意味の言葉で、名詞の前につけて、「私のパソコン」とか、「彼の弁当」などと言いたいときに使います。
この文の主語が il (それは)という3人称なので、それが提供するものとして、3人称の所有形容詞が使われています。
3人称の所有形容詞は、みな、S から始まり、
son(男性単数), sa(女性単数), ses(複数) の3つあります。
形容詞なので、あとに続く名詞に性別と数を一致させます。それを所有している人間ではなくて、名詞のほうに性数一致です。
confiance は 女性名詞なので、sa confiance, amour は 男性名詞だから son amour となります。
補足:人称の説明
人称を忘れた人のために、説明します。
1人称=私(話している自分)
2人称=あなた(話している相手)
3人称=その他の人(話題にあがっている人)
3人称というのは、私でも、あなたでもない人/物のことです。
これをさらに、単数(1人/1個)と複数(2人/2個以上)にわけます。
3人称の場合はさらにこれを性別で区別します。
フランス語の名詞は女性か男性のどちらかで、女性名詞を受ける代名詞/形容詞と、男性名詞を受ける代名詞/形容詞を区別します。
発音のポイント
son amour は、ソンアムール ではなく、ソナムールです。
これはリエゾンという現象です。
リエゾンは、単語の語末に本来はない音が追加され、次の母音とつながって発音されることです。
son の on の部分は鼻母音なので、オン~みたいに(カタカナでは書き表せませんが)、鼻をひびかせます。しかし、次に、母音で始まる言葉が続くときは、鼻母音のあとに、N の音が入って、ソナミとなるわけです。
なお、amour は 男性形だから、son でいいのですが、母音字と無音のH(というのがあります。まあ、ふつうのHから始まる単語、という理解でだいたいOK)で始まる名詞の前では、女性名詞でも、son を使います。
そのほうが発音しやすいからです。
たとえば、
son amie (彼の女性の友達)というように。
これも、ソンアミ ではなく、ソナミです。
他に発音のポイントとしては、Il offre は、il の L とoffre の O がつながって、いろっふ みたいになります。これは、アンシェヌマンという現象です。
フランス語の単語の多くは、語末の子音を発音しませんが(ここは、英語と大きく違うポイント)、il のように、発音するものもあります。
そのような、通常発音される最後の子音が、次の単語の母音と結びつくことを、アンシェヌマンと呼びます。
なめらかに発音するわけです。
ほかの例をあげると、il y a は、イルイア とは読まず、イリヤ となります。
confiance という単語は、on と an の2つ鼻母音が入っています。
鼻母音をうまく鼻にひびかせると、フランス語らしく聞こえます。
主語の il について(余談)
以前から、なぜこの文章は主語が il なのか疑問に思っています。
このサウンドロゴは、いつも「セシイル」のあとに続くから、
Cécile, Il offre sa confiance et son amour. なのだと思います。
つまり、「セシールは、信頼と愛をお届けする」わけですが、
なぜ、セシールが il なのでしょうか?
当時、セシールは、Cécile Co., Ltd. ですが、Co., Ltd. をフランス語にすると、société à responsabilité limitée となり、これは女性名詞です。
なぜ elle じゃないんだろう、と思うわけです。
1980年代のCMの最初のほうに
La vente par catalogue(カタログによる販売)
Cécile(セシール)
と出てくるので、「カタログが愛と信頼をお届けします」なのかな、とも思います(カタログは男性名詞)。
セシールという名の由来(完全に余談)
セシール(Cécile)は、女性の名前です(フランス語ではセシル)。
セシールの沿革を書いたページによると、
親しみがあって響きがよく、さらにイメージの美しいフランス語系の名前というコンセプトに基づいて、100以上もの候補の中から様々な検討が重ねられ、1年という時間をかけて決定されました。
とのことです。
引用元⇒総合通販セシール | CECILE | 中国 | 上海 » セシールヒストリー
セシールという名は、3世紀のローマ帝国に実在した殉教聖女で、死後に、「美と音楽の守護者」とたたえられた聖カエキリア(Caecilia)のフランス語読みのCécileからとったそうです。
カタログ、セシレーヌ(Cécilene)は、セシール(Cécile)と、フランス語で「女王」を意味する、Reine (レーヌ)をあわせて作った言葉とのこと。
セシールは女性なので、ますます、il を使うのが謎です。
聖カエキリアは、フランス語では、 Cécile de Rome や Sainte Cécile と呼ばれる聖女です。
2~3世紀のローマの人だと言われています。
ローマ教会の殉教者の1人ですが、史実をめぐって議論の的になっています。
聖カエキリアは、ローマの貴族と結婚しましたが、彼女は神に純潔を捧げていたので、夫婦の営みを拒否しました(では、なぜ結婚したのか?)。
怒った夫が、「ならば天使を見せてみろ」と言ったところ、本当に天使が降りてきて、聖カエキリアの頭に花の冠をのせました。
おどろいた夫は、弟と一緒にキリスト教に改宗した、という逸話があります。
聖カエキリアは当局から弾圧され、蒸し風呂で窒息死(!)という刑罰を受けましたが、死にませんでした。
首に剣で切り込まれても、かすり傷のみ。
彼女は天使に守られていたので、無事なのです。
しかし、その数日後に、ひっそりと殉教したといいます。
せっかく生き延びたのに、なぜ? 天使は何もしなかったのか?
カエキリアは、イタリア語だとチェチリア、英語だとセシリアです。
セシル、チェチリア、セシリア、みなきれいな名前ですね。
聖カエキリアは、音楽家と詩人の守護神なので、宗教画では、楽器と一緒に描かれることが多いです。音楽学校の名前にもなっています。
こちらは、セシリアを描いた絵で構成されたスライドです。
パーセル「聖セシリアの日のためのオード」より。
聖セシリアの絵がたくさん出てきます。
3分44秒
聖セシリアの日は11月22日です。
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今回の記事は、以前アメブロに書いた記事を大幅にリライトしました。
当時、まだセシールは、株式会社セシールだったので、セシールのサイトがありましたが、今はもうありません。
セシールの、一般人には意味不明のフランス語のサウンドロゴは大変な評判を呼び、問い合わせが殺到。そのおかげで売上も大幅に伸びたとか。
やはり、商品はイメージが大切ですね。
たくさんの人が、フランス語の店名をつけたいと思うのも、無理ないのかもしれません。
わー偶然!ディノスで買い物をしようと、思っていたところなんです。
クッキーさん、こんにちは。
それはおもしろい偶然ですね。
いい買い物ができましたか?
またよろしくお願いします。
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