映画、「シェルブールの雨傘」の劇中歌を最初から順番に訳しています。
この映画はミュージカルで、セリフはすべて歌になっているので、歌を全部訳せば、セリフを全部チェックしたことになります。
今回は、Dans la magasin (傘屋の中で)という曲で、主人公のジュヌヴィエーヴとその母親が母親の経営する傘屋及び自宅で歌う歌です。
歌の長さは5分21秒で、わりと長めのやりとりです。
Dans la magasin
歌の内容から、お母さんが娘の結婚に反対していることや、お母さんは全く経営感覚がなく、自分を美しく着飾ることにしか興味がないらしいとわかります。
実際、とても美しいお母さんで、いつもきれいな服を着て、メイクもばっちりしています。
歌詞
傘屋の中で・訳詞
母(エムリ夫人):あなた気が変よ。16歳で結婚を考えているの?
娘(ジュヌヴィエーヴ):17歳よ。
母:恋愛中だなんて
娘:私がブスすぎるのか、馬鹿すぎるの?
母:そうじゃないわよ。あなたはブスじゃないし、美人中の美人というわけでもない。あなたがきれいじゃないとか、馬鹿だとかそういう話じゃなくて、あなたの年齢のことを言ってるの。
自分では愛していると信じているけど、愛ってもっと別のことよ。そんなふうに恋に落ちたりしないわよ。街ですれ違った顔に恋をしたりしないものよ。
娘:もう何度も会っている若い男性よ。私のことを愛してくれているわ。私たちは結婚したいの。何も言わないの?
母:だって、すごく驚いているのよ。
娘:昨夜、彼と一緒に劇場に行ったわ。
母:なんてこと。私に嘘をついておいて、恥知らずにも告白するってわけね。
娘:結婚したいと思うのは恥ずかしいことじゃないわ。
母:あなたの年齢ならそうなのよ。ううん、そうじゃないけど。とにかく、あなたはまだ何も知らない子供なのよ。
娘:そのとおりよ。ママの話していることは、私がうまくやっていく助けにならないわ。
母:私があなたのパパと結婚したとき、私は何も知らなかったわ。
娘:そんなの自慢にならないわ。
お店に入ってきた人:絵の具屋さん、お願いします。
母:隣の店です。その人、何歳なの?
娘:二十歳よ。
母:もちろんまだ戦争に行ってないわよね。
娘:ええ、代母と一緒に住んでいるわ。その人に育てられたの。彼には私しかいないのよ。それに(tu verras 見て)、すごくハンサムなのよ。
母:私には何も見えないわ(Je ne verris rien du tout 何も見えないわ)
娘:でも、ママ!
母:家(アパルトマン)のほうに上がりなさい。昼食を準備する時間だわ。
娘:(郵便配達人に)こんにちは。
郵便配達人:こんにちは、お嬢さん、こんにちは奥さん。
母:こんにちは。
郵便配達人:さようなら。
[エメリー夫人が届いた手紙の封を切って中身を確認]
母:まあ、大変! ジュヌヴィエーヴ、私たち、破産よ。
娘:いつも大げさなんだから
母:15日までに8万フラン、支払わないといけないのよ。これがおもしろいって言うの?
娘:もし払わなかったら?
母:差し押さえよ。
娘:私、働くわ。
母:どんな仕事をするのよ。
娘:どんなことでも
母:郵便局か、役場ってこと?
娘:いいでしょ? ママ、わかってほしいんだけど、もし私が結婚したら、ギイと私は働いて、ママを助けられるわ。
母:でも、お前、結婚するなんてとんでもないわ。[ジュヌヴィエーヴが花瓶にいける菊の花をカウンターに置く])それをどかして邪魔でしょうが。そもそも、彼、仕事してるの? 彼に、あなたを養い、子供を育てることができるの?
娘:彼はお金持ちじゃないわ。慎ましく暮らすわ(ただ、生活するだけよ)。それにすぐに子供は作らないわ。
母:でも、少なくとも1人はいるでしょ。彼が私の税金を払ってくれるわけじゃないし。きのうから、レジには一文だってないのよ。
娘:宝石を売れば?
母:私の宝石を? そんなの絶対だめ。
娘:何の役に立つっていうのよ。見もしないくせに。
母:緊急のできごとが起きたらどうするのよ。
娘:今起きてることが緊急のできごとでしょ。
母:だめ、ありえないわ。宝石を売ったら、裸にされたような気がするわ。丸裸よ。
娘:じゃあ、他の物を見つけなさいよ。
母:他の物? でも何もないわよ。
娘:じゃあ、店を売れば?
母:馬鹿じゃないの。どうやって生きていくっていうのよ。確かに宝石は宝石にしかすぎないわね。[鏡を見ながら]髪型変えようかしら。[宝石箱を開けて]私の婚約指輪。ああ、ひどいわ。このブレスレット、とても身に着けられないわ。誰もこんなの欲しがらない。
娘:[母がつけている3連のパールのネックレスを見て]ネックレスは?
母:私のネックレスですって? そんなの犯罪よ。絶対手放さないわ。
娘:でも、それ絶対、偽物(にせもの)よ。
母:じゃあ、(売っても)いいってわけね。よく考えると、そんなにきれいじゃないし。きょうの午後、デュブールさんのところに行って、それから、美容員に行くわ。
単語メモ
faire son régiment 兵役につく
marraine カトリック教の代母
dépouiller ~を裸にする
Monsieur Dubourg デュブールさんは宝石商。
傘屋の中で・補足
のろのろ訳しているので、まだ第一部です(開始から15分半あたりから、今回の歌が始まります)。
第一部は、1957年の11月で、当時、フランスはアルジェリア戦争をしていました。
お母さんが「戦争に行ってないわよね」と言うときの戦争は、このアルジェリア戦争のことです。当時、召集令状が届くと、2年間の兵役がありました。
エムリ夫人とジュヌヴィエーヴは、母一人子一人で、この歌のシーンでは、言い争いをしてはいますが、一緒に傘屋をやっていて、かなり親しい間柄です。
親子だから親しくて当然ですが、私の目からは相当、近しいです。お母さんの精神年齢が低いため、姉と妹的な雰囲気もあります。
■シェルブールの雨傘:これまでに書いた記事
修理工場のシーン(映画「シェルブールの雨傘」#1):歌と訳詞。
伯母エリーズの家で(映画「シェルブールの雨傘」#3):歌と訳詞。
通りで + ダンスホールで(映画「シェルブールの雨傘」#4):歌と訳詞。
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税金の支払いをするために、エムリ夫人は自分のネックレスを売ることにしました。
このネックレス、それほど高価なものなのでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに。
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