「夜間飛行」という歌をご存知でしょうか? ちあきなおみ(歌手の名前です)の昭和48年(1973年)のヒット曲です。
お若い方は知らないかもしれませんが、ちあきなおみは1970年代に大活躍した歌手で「喝采」という歌でレコード大賞も受賞しています。
「夜間飛行」はその名のとおり、恋に破れた女性が飛行機に乗って異国に旅立つ歌です。その飛行機は夜の便。夜の果てにわたしは行ってしまうのよ、という決意の歌でもあります。
この歌には、途中でフランス語のナレーション(CAの機内放送)が入っています。ほんの4行の短いフランス語です。今回はそのフランス語を紹介します。初心者の方でもわかるように、詳しめに説明をつけますね。
夜間飛行
「夜間飛行」はこんな歌です。
フランス語の機内放送は1分37秒あたりから始まります。
Mesdames et messieurs, dans un moment, nous arriverons à Orly.
Nous apercevons une lumière de Paris.
Nous vous remercions d’avoir choisi notre compagnie.
Bon voyage. Merci. Sayonara.
どうやらこの飛行機はフランスのオルリー空港に行く便のようです。エールフランスの飛行機でしょうか?
和訳はこうなります。
皆様、まもなく当機はオルリーに到着いたします。
パリの夜景をお楽しみください。
当機をご利用いただきましてありがとうございます。
よいご旅行を。ありがとうございます。さようなら。
ちょっと意訳しております。
ではひとつずつ見ていきましょう。
Mesdames et messieurs 紳士淑女の皆さま
ポイント1:所有形容詞
mesdamesは madame の複数形、messieurs は monsieurs の複数形です。
madame = ma + dame, monsieur = mon + sieur なので、所有形容詞(maとmon)部分が mes という複数形になっています。
所有形容詞は「私の~」「あなたの」「私たちの」というのように、誰がそれを所有しているのか示す言葉です。形容詞なので、修飾している名詞に性数一致します。
所有形容詞について⇒「まいにちフランス語」3:初級編L7-9~形容詞
dans un moment まもなく、すぐに
un moment はごく短い間です。
nous arriverons à Orly 私たちはオルリーに到着するだろう
nous は 私たち という意味の人称代名詞です。文頭にこういうのが来るとたいてい主語なので「私たちは」という意味になります。ここでは、飛行機に乗っている人すべてのことです。飛行機まるごと、オルリーに到着するので、nousになります。
このアナウンスの主語はすべて nous 「私たち」です。
nous は 1人称の複数です。1人称の単数はje (私)です。
ポイント2:動詞は活用する
arriverons à は arriver à の単純未来形で、主語が nous のときの活用形です。
動詞は、不定法(不定詞)というものがあり、これが状況によってさまざまに活用します。
時制という「時」や、「法」(直接法とか接続法とか。どんな気分で言ったか)、その動作をしている「主語」によって変わります。
初心者向けの辞書だと、活用した形ものっているものもあるかもしれませんが、たいていの辞書には、不定法の形しかのっていません。フランス語を始めたばかりだと辞書1つひくのにも苦労します。しかし、そのうちだんだん元の動詞の形が類推できるようになります。
arriver は 「着く、到着する」という意味。
単純未来形はその名のとおり未来のことで、これから起こるはずのことを言い表しています。
単純未来形について⇒「まいにちフランス語」36:L58 単純未来その1
じつは未来形にはもうひとつ、近接未来というのもあります。この2つの違いをしりたいときはこちらを読んでください⇒まぎらわしい近接未来と単純未来の違いをマスターしよう
Nous apercevons une lumière de Paris. パリの光が見えます。
apercevons は apercevoir という単語の現在形です。apercevoirの意味はいくつかありますが、ここでは、それまで見えなかったものが見える、目に入る、だと思います。
lumière は光。ここでは街の明かりでしょう。街の明かりなら、あちこちで光っているから、複数形のほうが自然だと思うけれど、はるか上空から見てるから、1つの点に見えるのでしょうか?
ポイント3:動詞の目的語が代名詞のとき動詞の前に来る
Nous vous remercions d’avoir choisi notre compagnie. 当社を選んでいただきありがとうございます。
この文章は、このアナウンスの中でもっとも構文が複雑ですが、骨子だけとると、Nous vous remercions 私たちはあなたに感謝している、です。
remercions は remercier 感謝する、礼を言う の nousに対する活用形です。remercier は re + mercier で、mercier は merci(メルシー)という言葉から来ています。
何を感謝しているかは、前置詞 de以下で説明しています。
感謝している相手は vous (あなたたち)ですが、フランス語では動詞の目的語が代名詞のときは、その動詞の前に来ます。ここは英語と大きく違う点です。
しかし、よく考えるとこれは日本語の順番と同じです。そう考えると親しみがわくかもしれません。
avoir choisi は 選んだこと。これは不定詞複合形という形です。ふつうの動詞はただの不定詞ですが、前にavoirや être がつき、形が過去分詞になると複合不定詞となります。
なぜ複合させるかというと、主語の動詞よりも前に完了したことを表したいからです。主語の動詞はremercier で、これはいまのこと。それより前にお客さんが、この飛行機に乗ることを選んだので、ひとつ時制をバックさせているのです。
choisi は choisir (選ぶ)の過去分詞です。
notre は所有形容詞で、「私たちの」という意味です。「ノートルダムのせむし男」(Notre-Dame de Paris)のノートルと一緒です。ノートルダム(Norew-Dame)は、直訳すると「私たちの貴婦人」ということで、具体的には聖母マリアのことです。
compagnie は 会社。英語のcompany です。
Bon voyage. Merci. Sayonara. よい旅を、ありがとうございます。さようなら
ここは簡単ですね。ボン・ヴォヤージュは日本語にもなっています。
フランス語はわりと簡単に読めるようになる
ざっと説明してみましたが、どうだったでしょうか?
フランス語を全く知らないと、「何のこっちゃ?」となるかもしれません。しかし、今回書いたことは、半年ぐらいラジオ講座の初級編を聞いていると、わかるようになります。
最近はあまり文法に踏み込まない講座もありますので、そういうのを聞いちゃうとだめかもしれませんが。
たった半年です。飲み込みのいい人だと、簡単な文法書を読んだだけで、わかっちゃったりするかもしれません。
確かに、フランス語をあやつるのはそんなに簡単ではありませんが、初級文法や読み方は、ちょっと勉強すればわかるようになります。
「フランス語に興味あるけど、なんか難しそう」と尻込みしているなら、それは誤解なので、ちょっと勉強してみてください。意外に楽しいです。
「夜間飛行」にまつわるあれこれ
夜間飛行はフランス語で Vol de nuit ヴォル・ド・ニュイ
これはサン=テグジュペリの小説の名前でもあります。
「ヴォル・ド・ニュイ」はゲランの香水の名前でもあります。ゲランがサン=テグジュペリへのオマージュとして作った香水です。
八神純子の歌にも「夜間飛行」というのがありますね。全然違う歌ですが、やはり恋人のもとから、だまって飛行機に乗って去っていく歌です。
さらに、ジェットストリーム(ボールペンじゃなくて、ラジオ番組の名前)のエンディングテーマも「夜間飛行」です。これはレイモン・ルフェーブルがこの番組のために、書き下ろした曲だそうです。
最後にこの曲を紹介しますね。
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ちあきなおみさんは、1992年にご主人がなくなってから、歌うのをやめて、芸能活動はいっさいやっていません。引退宣言をしたわけではなく、落ち着くまでちょっと時間をください、と言って今日まで来てしまったのです。
印税の収入がたっぷりあるので、別に働かなくても暮らせるようです。
あんなに歌がうまいのにもったいない気もします。
八神純子さんは1986年にジョン・スタンレーという音楽プロデューサーと結婚して、アメリカのLAに移住。今もLA在住です。結婚後20年ぐらいは音楽活動をしていなかったようですが、2011年に復帰して、今は、毎年日本に帰ってきて音楽活動をしています。
2017年の秋もコンサートツアーがあります。この方は名古屋出身なので、私の周囲ではよく話題になっていました。
「ジェットストリーム」、私もよく聞いていました。ですが、オープニングの「ミスター・ロンリー」にはなじみがあるものの、エンディングテーマはあまりしっかり聞いたことがありません。
最後まで起きていられず、エンディングの夜間飛行は聞いたとしても、半分眠りながら聞いていたのです。
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