フランス・ギャル(France Gall)のPoupée de cire, poupée de son『夢見るシャンソン人形』という曲を紹介します。
言わずとしれたセルジュ・ゲンズブールが作った超有名曲。ほかのブログでもたくさん訳されていますが、私がフランス語を勉強し始めて初めて訳してみた記念の曲なので、取り上げました。
まずは歌をお聞きください。
Poupée de cire, poupée de son ろう人形、おがくず人形
ロシア民謡を思わせるアレンジがいいですね。これを聞くたびに、ポーリュシカ・ポーレを思い出してしまいます。
さて、邦題は「夢見るシャンソン人形」と可愛らしい感じなのですが、歌詞の内容はわりとシニカルです。私は何も知らずに、歌を歌う人形なのよ」と自嘲的な歌詞です。フランス・ギャルは笑顔で歌っておりますが。
それでは訳詞に挑戦!
Je suis une poupée de cire, une poupée de son
Mon cœur est gravé dans mes chansons
Poupée de cire, poupée de son
わたしはろう人形、おがくず人形
私の心は歌の中に刻みこまれているの
ろう人形、おがくず人形
客間にある人形よりいい?それとも悪い?
私、世界をバラ色の眼鏡をかけて見てる。
ろう人形、おがくず人形
★Mes disques sont un miroir
Dans lequel chacun peut me voir
Je suis partout à la fois
Brisée en mille éclats de voix
私のレコードは鏡なの。
そこからみんな、歌っている私が見える。
私は同時にいろんなところにいるの。
声はちりぢりになって、こわれそうだけど★
私のまわりで、ぼろきれの人形が笑うのが聞こえる
彼女たち、私の歌にあわせて踊ってる
ろう人形、おがくず人形
ぼろきれの人形は名前や「はい」という返事に簡単に身を任せる
愛は歌の中にあるだけじゃないってことね
ろう人形、おがくず人形
★~★ くりかえし
ひとりでときどきため息をつく
自分に聞いてみる。「いったい何になるの?」
「わけもなく愛の歌を歌う。男の子たちのこと、何も知らないのに」
わたしはただのろう人形、おがくずの人形
太陽のような金色の髪の
ろう人形、おがくず人形
でもいつか、自分の歌のように生きるつもりよ
ろう人形、おがくず人形
男の子たちの情熱を怖れないでね
ろう人形、おがくず人形
単語メモと文法ポイント
セルジュ・ゲンズブールは言葉遊びやダブルミーニングをするのが好きというか、得意な人なので、よく裏の意味が込められています。
cire:ろう
son:おがくず 同音異義語で「音」がありますが、ここは『de+材料』と解釈して、おがくずの人形にしました。おがくずをつめた人形はフランスの伝統的なおもちゃです。ろうでできていて、音がでる人形という解釈もできるかもしれません。
gravé:graver の過去分詞 ~を彫る、刻み込む (この文は受動態)
meilleure: よりよい (cf. bon )
pire: より悪い (cf. mauvais )
poupée de salon:salon は 応接間、客間、店、サロン、ラウンジ、展示会、等々あり、またしばしば複数形で社交界。客間に飾ってあるちょっといい人形=自分よりきれいな女の子やモデルたち。
voir la vie en rose :人生をばら色に見る、物事を楽天的に考える
rose bonbon:濃いピンク色。お菓子の色。
Je vois la vie en rose bonbon の rose は、ばら色のめがねのばら色と、ローズボンボンというピンク色のお菓子の rose とをかけあわせてます。bonbonは韻をふませるため。
最初のパッセージでは、son-chansons-son-salon-bonbon-son と韻をふみ、2つ目では miroir-voir-fois-voix と韻をふんでいます。
brisée: briser の過去分詞 砕く、壊す。 briser en mill で 「こなごなにこわれる」
éclat:破片、大きな音 éclat de voix で「突然の大声」
éclats は briser en éclats (こなごなにくだける)、と éclat de voix (大声)の両方に使われています。ふたつあわせて突然大声をだして、こわれる感じでしょうか?
Celles qui:celles は 関係代名詞、quiの先行詞。前の名詞の les poupées de chiffon をさしています。
les poupées de chiffon ぼろきれでできた人形。 chiffon (シフォン)は英語や日本語では、シフォンは平織りの薄い絹で、素敵なイメージなのですが、フランス語では、雑巾やボロ切れ、しわくちゃの布、という意味です。
se laissent ←se laisser: 身をまかせる、という感じ。
séduire: 誘惑する
nom*:ここがnonになってる歌詞もあります。
soupire ←soupirer ためいきをつく
ne ~ que :~しかない
vivrai← vivre の未来形。生きるつもりだ。生きるだろう。
craindre: 恐れる
la chaleur: 熱、ぬくもり
en chaleur だと「さかりのついた」という意味です。
文法ポイントとしては、
ne … que A は Aしか…ない、Aだけ…である
これ、すごくよく出てきます。こちらで詳しく説明しています。
前置詞+関係代名詞 lequel
Mes disques sont un miroir dans lequel chacun peut me voir
鏡(レコード)の中に、人は、私を見る⇒人は、鏡の中に映っている私を見ている。
他の例: le milieu dans lequel il vit 彼が生きている環境
詳しい説明はこちら
歌詞付き動画
この曲は1965年、ユーロビジョン・ソング・コンテストで、ルクセンブルクの代表曲として参加しグランプリを取りました。ギャルもゲンズブールもフランスのパリ生まれですが。
その後、ヨーロッパを中心に大ヒットしました。日本でも、大変人気があり、たくさんの日本人女性歌手がアルバムなどで歌っています。日本人受けする曲調なのかもしれません。
「夢見るシャンソン人形」カバーバージョン
この曲、いろいろな言語で実にたくさんカバーがあるのですが、やはりフランス語版が一番いいと思います。
アレンジが少し違うものを2つ紹介します。
ロカビリースタイル。
ロックなバージョン
あまり好きなアレンジではありませんが、英語版も紹介します。
ツインクルは1960年代に活躍したイギリスのシンガーソングライター。フランス・ギャルと同年代ですが、去年の5月にガンで66歳で亡くなっています。
フランス・ギャルについてはこちらで詳しく紹介しています。
他にはこんな曲を訳しています。
セルジュ・ゲンズブールの曲はこちら。
この曲も、ゲンズブール作。
2018年1月7日、残念なことに、フランス・ギャルは70歳で亡くなりました。
ゲンズブールは、「何も知らないのに愛の歌を歌っているあやつり人形ちゃん」という意味を、歌詞に込めているのですが、ギャル(当時17歳)は、まだ若くて世間知らずだったので、そんなことには全く気づいていなかったそうです。
それでは、次回の歌の記事をお楽しみに。
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