フランスの歌手、アリゼの秋にちなんだ歌を紹介します。
タイトルは À cause de l’automne カタカナで書くと、アコーズ・ド・ロータム。
à cause de は、「~の理由で、~のせいで」という意味です。一般に、好ましくないこと、悪いことがおきてしまった理由を言うときに使われます。
さて、秋のせいでいったい何が起きたとアリゼは歌っているのでしょうか?
À cause de l’automne 秋のせいで
フランスで2012年7月4日に発売された曲です。ミドルテンポなのでフランス語はわかりやすいです。
ちょっとバックの演奏がうるさいですが。
冒頭、007のタイトルバックを真似ていることからもわかるように、全体的に古っぽいというか、60年代風の音楽を意識しているようです。
昔の歌謡曲みたいなアレンジですね。
それでは訳詞に挑戦。
秋のせいよ
葉っぱが、薄暗い道の、私たちの足元に落ちるとき
昼のさなか、何もかもが変わり、みんな消えてしまうとき
すべてはどんどん過ぎ去ってしまう。この恋も消えるわ
★秋が来たからあなたとは別れるわ
水槽の中で暮らすのは悲しいから
私がいなくなったら、それは秋のせいよ、秋のね
みんな色あせ、私たちのことを許してくれるの
恋は消え去り、終わってしまうのよ
秋のせいで★
私、もう好きじゃないのよ。窓から2人を見るのは
私が、ヴェルレーヌのように薄暗がりのなかをさまよったら、
すべてはどんどん過ぎ去ってしまう。この恋も消えるわ
☆秋が来たからあなたとは別れるわ
あなたに悪いから早くするわね
私がいなくなったら、それは秋のせいよ、秋のね
私たちがたくさんの嘘や過ちのなかに、身を隠しているとしたら
つまりそれは、秋のせいなのよ☆
秋のせい
すべてはどんどん過ぎ去ってしまう。このの恋も消えるわ
☆~☆ 繰り返し
★~★ 繰り返し
単語メモ
sombre 暗い、薄暗い ⇔ clair
en plein jour 真っ昼間に、白昼に
cours (時の)流れ、(事柄の)経過
s’éteint < s’éteindre (感情、情熱、記憶などが)薄らぐ、失われる
en fuite 逃げている、逃亡中の
fuis < fuir 逃げる、逃走する;遠ざかる
s’effacer < s’effacent 消える
se lassent < se lasser ~に飽きる、うんざりする
vagabonder さすらう、放浪する
pénombre 薄暗がり、薄明かり
des tonnes de ばくだいな量の、すごくたくさんの
tords この単語、辞書にのってませんでした。たぶん名詞だと思うのですが。その前の「嘘」と似たような意味だと思います。tordre (ねじる、よじる)という動詞から連想し、「まっすぐでないもの⇒あやまち」としておきました。
en sommes 結局のところ
je n’aime plus par la fenêtre, voir ces deux êtres とあるので、アリゼが心変わりしたのではなく、彼のほうに別の恋人がいた、と考えられます。
プチ文法メモ:形容詞の位置
今回は、形容詞の位置について。
フランス語の形容詞は、ふつう名詞の後にきます。
名詞のあとに来る形容詞は、その名詞の指し示すものをほかのものと区別する働きをもっています。
「料理」という単語に「フランスの」とか「イタリアの」とつけて、区別するわけです。
しかし、名詞の前が定位置の形容詞もあります。
beau, bon, grand, gros, joli, mauvais, petit などです。
そして、名詞の前に来たり、後ろについたりする気ままな形容詞もあります。こういう形容詞が前にくるときは、主観的な意味合いが強くなる、と参考書に書いてあります。
さらに、名詞の前についたときと、後ろについたときで、意味が微妙に変わる形容詞もあります。
そういうのの1つが、歌詞の中に出てくる dernier, dernière です。
前につくときは、「最後の、最終の; 最近の、最新の」という意味です。
le dernier train 終電車
ces derniers temps 最近、近頃
名詞のあとにつくときは、現在を起点として、この前の、すぐ前の、という意味です。こちらの意味のときは、たいてい「年」とか「週」など、時に関係のある名詞のあとに続いています。
l’année dernière 去年
la semaine dernière 先週
歌に出てくる le dernier amour は、「最近の恋、最新の恋、直前の恋」だと思います。今、アリゼが、捨てようとしている恋です。
今の人とは分かれて、また別の人と恋をすると思うので、最後の恋ではないでしょう。
形容詞について⇒「まいにちフランス語」3:初級編L7-9~形容詞
秋の歌:ヴェルレーヌ
歌詞の中に、フランスの著名な詩人ヴェルレーヌ(Verlaine)の名前が出てきます。
Si je vagabonde dans la pénombre tout comme Verlaine というところです。
ここは、ヴェルレーヌの有名な「秋の歌」という詩を意識して書かれていると思います。
ということで、「秋の歌」Chanson d’automne という詩を紹介します。
朗読している動画
こちらはフランス語学習用にゆっくり朗読している動画です。
発音の練習にはいいけど、ゆっくり読みすぎると詩のリズムがくずれますね。
Chanson d’automne
Les sanglots longs
Des violons
De l’automne
Blessent mon cœur
D’une langueur
Monotone.
Tout suffocant
Et blême, quand
Sonne l’heure,
Je me souviens
Des jours anciens
Et je pleure;
Et je m’en vais
Au vent mauvais
Qui m’emporte
Deçà, delà,
Pareil à la
Feuille morte.
有名な上田 敏の訳はこちら。
秋の歌
秋の日の
ヰ゛オロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。
鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。
げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。
堀口大學や金子光晴の訳はWikipediaにあります⇒秋の歌 (詩) – Wikipedia
寂しくて、風にふかれて、枯れ葉のように所在なくさまよってしまう、というところを、「私も同じなのよ。枯れ葉みたいにあなたのもとから去るのよ」とアリゼは歌っているのでしょう。
格調が違いますが。
これまでに紹介した秋の歌の一部
『枯葉』Les Feuilles mortes イブ・モンタン~歌と訳詞
インディラの Feuille d’Automne (秋の葉っぱ) :歌と訳詞
秋がやってきたから(ア・ラ・ファヴール・ドゥ・ロートン)~テテ:歌と訳詞
フランシス・カブレル Octobre (10月):歌と訳詞。美しすぎる秋の歌
アリゼの歌は、ほかにこんなのを訳しています。
歌と訳詞:アリゼ Fifty-Sixty ウォーホルのミューズ、イーディのことを歌った歌
À cause de l’automne は5枚目のアルバムで、その名も5(Cinq)というアルバムに入っています。60年代風の音作りです。
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秋をテーマにした歌は美しいものが多いですね。また見つけたら紹介します。
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